室田の世界!
「室田パーンチ!」
奇怪な必殺技を叫びながら、試合開始と同時に拳を繰り出す。咄嗟の出来事だったが、この拳を難なくかわすヒロキ。
「ふふん。この室田のパンチを避けるとはな!」
「不意打ちかい? 戦法といえばそれまでだけど……あまり好きではないね」
言葉のやり取りで、時間を稼ぐ。実際のところ、パンチを避けた拍子に態勢も崩していて、この時間帯は態勢直しの絶好のチャンスだった。そのまま構えをとる。
「不意打ち? 挨拶代わりだぜ!」
言葉に力を込めながら、またしても不意打ち気味な攻撃をしてくる。さすがに構え直していただけあり、今回は拳を綺麗にかわし反撃をする。
「ぐがぁ!」
「……あれ?」
これこそヒロキにとっては「挨拶代わり」の一撃だった。倒すつもりもなかった攻撃が室谷ヒットする。そのまま倒れ込み、情けなく地面を這いずりまわって距離を離す。
心なしか室田の呼吸が荒い。しかも、変な汗までかいている。
「て、てめぇ……この室田に一撃をぉぉ……!」
「あ、いや、ごめん」
何故か誤るヒロキ。試合中の一撃で謝る必要はないのだが、荒い呼吸と変な脂汗をかきながら、そんな事を言われては謝ってしまう。
「いや、謝っても許さないぜ……この室谷に一撃を与えたんだからなぁぁぁ!!」
気合を入れたのか室田の顔が真っ赤になり、纏う雰囲気も緊張が走る。咄嗟に気持ちを切り替えて、武器を構え攻撃に備える。
「いくぜ、室田キーィィック!」
まるでどこぞの「バイクに乗ったヒーロー」のような跳び蹴りを繰り出す室田。フォームもどことなく変で、まるで酔っぱらいが真似たキックのようなフォームである。
隙だらけで、力一杯飛んでいる為に空中で姿勢制御もできていない。何よりも遅い。
「あ……」
そして着地……もとい落下。ヒロキの目の前で室田は落ちた。
「ぐぬぬ……ぬぬ!!」
「あ、あのー……大丈夫?」
落ち方が危なっかしく、鈍い音と共に落ちた室田を気遣ってしまう。チラリとワタル達を見ても既に、室田の行動に言葉も無いのか、放心状態で試合を見ている。
いや放心状態ならまだしも、既に試合を見ているのかさえも怪しい。戦っているヒロキ自身が早く試合を終わらせたかった。
「く、くそぉぉぉー!!」
突然叫びだして、大粒の涙を流し始める。さすがに心配になったのか黒子が室谷に歩みよる。
「室田君。大丈夫かい、まだやれるかい?」
「うぅ……足、捻挫したっぽい」
その言葉に目を点にさせるヒロキ。黒子も立場上では心配はしているが、余程まぬけに思ったのか笑いをこらえてる様子が見てとれる。
「でも、まだやれるぜぇ!」
捻挫したっぽい足をおして、再び立ち上がる室田。激痛が走るのか、再び大粒の涙を流す。
立ち上がった事により、黒子から続行の合図がされる。「立ち上がってしまった為」一応、武器を構え直す。
「ヒロキとかいったな、てめぇ」
「は、はい」
「この室田のスペシャルで葬ってやるぜ?」
怪しい笑みを浮かべる室田。その直後、室田の雰囲気がさらに変化する。今までと違う雰囲気にこの試合で何度目かの構え直しをするヒロキ。
まるで筋力とかという単純なパワーではなく、まるで未知の何かを集めるようにパワーを溜める室田。
(ま、まさか、いくらこの人が奇怪な事ばかりするからって、超能力とか使うのか!?)
咄嗟に思った感想。だが、ヒロキの真面目な回答だった。室田を纏う雰囲気は、オーラとなって目に見える形となる。
「はああああぁぁぁぁぁぁぁ……!!」
まるでどこかのバトル漫画にでも入ってしまったような、錯覚がヒロキの頭を駆けめぐる。
この試合を見ている見物人も、ワタル達も、目の前にいるヒロキも、ブルースメンバー以外の全ての人間が室田に引き寄せられている。
「あれ……?」
ふと、ブルースメンバーを見ると次の中堅の人が、戦闘準備をしている。
「室田……スペッシャルッッッ!!」
「はっ……!?」
よそ見をしている間に、室田のパワーチャージは完了したようで、その力を解放している。
が、目の前で室田は腕を十字に組んで何かをやっている。まるで「光の巨人のヒーロー」の必殺技みたいなポーズである。
「ビビビビビビ!!」
意味不明な疑似音を自分の口から発している。しかし、ヒロキの体には何も異常が見られない。
「え、えと」
「ビビビビビビ!!」
なおも変な音を真似し続ける室田。どうして良いかわからず、黒子に指示を仰ぐとそれを察したのか、黒子は動いてくれる。
「そこまで。先鋒戦はマックスハートの川崎ヒロキの勝利とする!」
高らかに黒子からの勝利宣言。やっとこの珍妙な戦いから解放された嬉しさから、ヒロキは安堵の顔を浮かべる。ある意味ではシリアスな試合よりもシリアスである。
室田はどうなったのかと見ると、チームメンバーに止められ怒られているようだった。チームリーダーの田中と目が合うと簡単なお辞儀をしてくれる。
変な人の集まりではないのだ、と、思い改めながらマックスハートへと帰っていく。
「あ、兄貴」
「あぁ……お疲れ、大変だったな?」
「うん、色々とね」
同情の視線を三人はヒロキへと送る。ヒロキにとって今は、その同情の視線が心地よかった。
「とりあえず、かなっぺ! ある意味だが気をつけろよ!」
「うん、わかってるよ。それにサーカスに付き合う気はないから一瞬で終わらせてくるよ」
かなは真剣な表情で言う。表情とは裏腹に何やらスカートの中をゴソゴソといじくっている。そのまま中央のバトルリングへと向かう。
スカートの中をいじるかなを、じっと見つめるワタル。
「……ワタル」
「なんだよ?」
「……やらしい」
冷ややかな視線を送る桐華。すかさずスカートから目線を離す。
そして中央ではブルースのメンバーは既にスタンバイしている。かなも準備ができたのか「いつでもOK」な状態を作っている。
「それでは、中堅戦――鈴木次郎対相沢かな、の試合を行います」
前試合の変な雰囲気は無くなり、緊迫感のある場が作られる。室田とは違い、目の前の鈴木はとても真面目そうな人相をしている。
特徴的なのは異様なツンツン頭。どれだけ固めればそうなるのか、というぐらいの髪型である。武器は木刀、名前もそうだが髪型以外は至って平凡である。
「試合始め!」
黒子の合図により、予選第二回戦の中堅戦が始める。開始早々、鈴木は木刀で遅いかかってくる。それに対してかなは、右足をゆっくりと天に突き上げるかのように上げる。
「なっ……!?」
何故か、鈴木の動きが止まる。かなの目の前で中途半端に止まり、それにねらい澄ましたハイキックをくらわす。
ハイキックをまともに顔面に受け、人形のように倒れる鈴木。確認の為に黒子が近寄る。
「これまで。中堅戦はマックスハートの相沢かなの勝利とする。そして二勝した事により、マックスハートの勝利とします!」
わずか三秒足らずの電光石火試合に、室田の試合とは別の沈黙が訪れる。