武器が無いもの……!
――桜井桐華。幼き日のワタルと共に、リトルウォーズ会場を駆けた人。ある意味ではワタルの最初の同士であり、今はマックスハート四人目の仲間である。
響ワタル、川崎ヒロキ、相沢かな、この三つの輪の中に、桜井桐華という四つ目の輪が加わる。
「こいつは、ガキの頃の知り合いだったんだ。そして我がマックスハートの新たな仲間だ、よろしくしてやってくれ!」
いつも通り、ワタルの切り出しから話は始まる。
初対面の人に可もなく不可もなくの反応をするヒロキ。まるで新しいオモチャを買ってもらった猫のように、目を輝かせるかな。そして無表情ながらも、どう見ても緊張している桐華。
三者三様の反応を、ワタルは一人で楽しんでいる。
「……えっと」
最初の言葉をどう出すべきか、それに悩む桐華を見て、かなが口を開く。
「相沢かな。ワタル君と同じ学校の高校三年生で、十七歳。よろしくね!」
簡単な自己紹介をする。初対面の人間に会い、これから一緒に戦っていく仲間には、当然の反応である。それに続くように、ヒロキも自己紹介をする。
「えっと、川崎ヒロキです。僕も兄貴達と同じ学校です。高校一年の十六歳です。多分、一番年下です」
いつもの優しい笑顔を振りまきながら、ヒロキも自己紹介を終える。
それでも無言の桐華に、ワタルは肩を叩きアイコンタクトを交わす。そのワタルの仕草に、意を決したのか、桐華の口から言葉が出る。
「……桜井桐華。学校は、多分みんなと違うけど……高校二年生」
がんばってそれだけの言葉を出したのだろう。ここから後に続く言葉は無かった。
あまり桐華をこのままにしておくのも、可愛そうと判断したワタルは早速リトルウォーズ二回戦の、参加メンバーを決める話に、取りかかる。
「さて、自己紹介はこれぐらいにしょうぜ。とりあえず二回戦のメンバー決めをしたいんだが……」
それだけ言うと、早速ワタルは桐華を見る。その視線を感じ取り、見返す。
桐華が見回すと、ワタル他二人も同じ考えなのか、桐華を期待の眼差しで見ている。
「じゃ、メンバー決めだが、桐……!」
「……待って!」
もう自分に振られるのがわかっていたかのように、ワタルの言葉を遮る。それには一つの理由があったからだ。
「なんだよ、トーコ?」
「……私は出られない」
その言葉に、期待に満ちた表情は一瞬で崩れ去る。桐華からすれば予想通りの反応である。
全員が一体なんでだ。という表情で見つめる中、桐華は一つの答えを出す。
「……だって、武器が無いもの」
それは出られない、と三人が納得する。結局は桐華はこの試合参戦はできず、一回戦と同じ三人で臨む事になる。
二回戦になると、一回戦よりもギャラリーが少し増えた。勿論、そんな気がするといってしまえば、それで終わってしまうぐらいの数だが、増えている事は変わらない。
「おいおい、あの一回戦で凄ぇ勝ち方した所あったよな、なんていったっけ?」
「あぁ、えーと。確かマックスなんたらだっけ?」
「そうそう、俺そのマックスなんたらの一回戦の試合見てないんだよね、今回はそこ見にいこうっと」
偶然だが、ワタル達の耳に入った見物客の言葉である。
よく聞き入ると、マックスハートの事を話してるギャラリーも、ちらほらと見受けられる。そんな会話を聞いて、嬉しさから体中にくすぐったさを覚える。
ワタルの策略は見事に、大当たりしたようだ。唯一まだ第三者として見れてる桐華は、みんなに「気を引き締めて」と一応ながら、激励の言葉を贈る。
一回戦の時と同じく、ワタル達の前の試合が長引いているようだった。ディーパーディーパーとダンスフィーバーズの一戦だ。この試合はディーパーディーパーが勝つと予想されている。このチームは前々回、前回とそこそこ良いとこまで行ったチームである。
「さて、長引いてくれてるなら順番決めをしておこうか」
「兄貴!」
「どうした?」
さっきまで朗らかだった表情が、今はすっかり戦いの顔になっている。
「この試合は僕を先鋒にしてほしい。絶対にヘマはしない」
「…………」
ワタルはヒロキの眼を見る。緊張もなく、気迫に満ちた眼をしている。その気迫はワタルが感じても凄いものがある。
しばらく無言で、そのヒロキの眼を見続けた。
「…………」
「っ…………!」
「よし、先鋒はヒロキ。中堅はかなっぺ。大将はオレサマでいくぞ!」
「兄貴……」
気張りすぎていたのか、今度は逆にほっとした顔つきのヒロキ。そんなヒロキの気合が抜けないように、少し強めに背中を叩く。
「任せたぜ、今度はオレサマにまわってこねぇようにな?」
「任されたよ、兄貴!」
二人はお互いに拳を合わせあう。そんな二人を、かなと桐華は見ている。
「あーあ。良いな、男の子は」
茶化してるような口調で、かなは言う。しかし半分は冗談だったが、半分は本気だった。
程なくするとワタル達の前の試合が終わる。予想通りディーパーディーパーが勝利する。メンツを見ると確かに強そうな雰囲気は持っている。
「って事は、次のオレサマ達の相手はあいつらだな!」
「ワタル君、前もそんな事を言ってたよね?」
「まぁ、こんぐらいの方が兄貴らしいよね」
「……ワタル。落ち込んでるよりも、元気であってほしい」
今までは三者三様の意見が、今では四者四様の意見が飛び交っている。復活したワタルを筆頭に、新しいマックスハートが動き出している。
ワタル達は、バトルリングへと向かう。一回戦と同じく、細かな内容を黒子に報告する為、リーダーだけが中央に集められる。先ほど決めた順番を、黒子に伝える。
「おぅおぅおぅ!! 俺様がブルースのリーダー。人呼んで炎の男こと田中太郎だぁ!!」
その男、田中太郎は異常なまでの熱血さと、異常なまでに平凡な名前が合わさった男だった。
「オレサマってとこが被ってるのが気にくわねぇが……マックスハートの響ワタルだ」
「おぅ、ワタル! 俺様の事は太郎って呼べ!」
「こら、田中太郎君。試合前だから少しは口を慎みなさい」
あまりの勢いに、黒子に注意されている。ワタル自身はあまり気にはしていない。
「では、これよりブルース対マックスハートの試合を始める!」
いつも通りの黒子の宣言。この宣言と共に選手は握手をする。最もこの握手をするのは大体リーダー同士がやるだけなのがほとんどである。握手が終わると、お互いのチームへと引き返す。
「向こうのリーダーさん、なんか熱い人みたいかな」
「あぁ、あっつあつだぜ」
戻ってきてヒロキを見てみると、青いハチマキを巻いて、木刀のチェックを入念に行っている。
試合直前になっても緊張は見られない。気迫もさっきよりも上を行く、体調も見る限り良さそうである。今回はいけるとワタルには確信があった。
「勝ってこい、ヒロキ!」
ヒロキは言葉で返さずに、親指を突き立てて「大丈夫だ」というような雰囲気で返す。メンバーが見送る中、先鋒のヒロキはバトルリング中央へと足を運ぶ。
「これより先鋒戦――室田誠対川崎ヒロキの試合を行います!」
相手の室田は武器を持っていない。構えから察するに何かの格闘技。リバティーズの金田と似たようなタイプかもしれない。
「それでは……始め!」
予選トーナメント第二回戦――ブルース対マックスハートが始まる。
そしてその先鋒戦。室田とヒロキの戦いが始まった。