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MAX HEART!  作者: ユウ
――夢の中の少女編!
19/58

夢の中の少女・後編!

 ――夜が明けて、七月二十一日。

 月が姿を隠し、日常を辿るように夏の太陽が現れる。毎日のように気温は三十度を超えて、ただその場にいるだけでも、ほんのりと汗をかいてくる。

 しかし、そんな暑さに影を潜めてしまうが、爽やかな一陣の風が吹き抜ける。風と共に草や土の、自然の香りを運んできてくれる。

「ヒロキ……オレサマだ。確か今日、試合だったよな? 先に行ってるから……かなっぺと一緒に会場に向かってほしい、じゃあ頼んだから」

「シチガツニジュウイチニチ。ゴゼンヨジサンジュップン……」

 ヒロキの携帯にワタルからの留守電が入っていた。



 ――同日。六時四十三分。

「ハァッ、ハァッ……!」

 混濁する意識の中で、ワタルは走っている。寝過ぎた為なのか、まだ頭が覚醒しきっていない奇妙な感覚を持ち続けている。

 今まで知らなかった、いや、忘れていた事が何かの「キッカケ」により起こされている。

 ただ頭の中の片隅にある、しかし、まるで真ん中にあるような大きな存在。夢の中の少女が頭の中で喋り続けている。なんの確信もないのに、ただその場所へ向けて走っている。

 向かった先は両国国技場の中央広場。朝も早い事もあり、人はまばらにいる程度。通勤する会社員や、大会役員の黒子が目につく程度のものだ。

 中央広場にある大木。初めて会場を訪れた時から、ずっとこの場所にある大きな木。一体いつからここにあるのかも、人は知らないぐらいの年月を得た老木。その老木の下に、彼女はいた。

「はぁ……はぁ……」

「…………」

「よぉ、早いじゃねぇか」

 ワタルの言葉に、目の前の少女は振り向く。

 長く綺麗な黒髪はポニーテールに束ねて、吸い込まれるような漆黒の瞳。やや大きめの制服を纏ってはいるが、スタイルの良さが服の上からでも見てとれる。

 相変わらず、ワタルよりも少しだけ小柄な少女。いや、彼女は数年前の面影そのままに存在していた。

「……やっと来た?」

「あぁ、やっと来たぜ」

 目の前にいる少女は昔の面影そのままだ。だが唯一というべきか、昔と違う点は無愛想になった、というべきか。

「いつからここにいたんだ?」

「……二年ぐらい前から」

 問いかけに、少し間を開けてからの返答。二年前、それはワタルが高校へ進学した時期であり、つまりはリトルウォーズ参加の権利を得た年でもある。

「二年って……お前なんでそんなに……」

「約束したから」

 ワタルの言葉は、少女の言葉にかき消される。その言葉には、感情がこもっている。

「約束……?」

「……忘れたの?」

「いや、その……」

 約束、というワードに何か思い出す。「忘れたのか?」と問われれば「たった今まで忘れてた」といえるぐらいのもの。

 ワタルが夢で思い出せたのは、少女との思い出のほんの一片なのかもしれない。

 事実、夢の最後の言葉。ワタルはここから先の記憶が曖昧だった。約束の話をはぐらかす為に、違う話題を提供する。

「そういえば『あの時』さ、何を言ってたんだ?」

「……ふぅ。やっぱり忘れてる」

 無表情だが、明らかに怒っているのがわかる。ワタルの聞きたい内容と約束が関係しているらしいのは、今の会話でわかる。

 悪い事をしたという軽い罪悪感と、思い出せない約束との間でワタルの心は揺れ動いていた。

「わかった。オレサマの負けだ。約束ってなんなのか教えてほしい……頼む」

「……私と見たリトルウォーズの年は覚えてる?」

「あぁ、何年前だったかまでは忘れたけど、それは覚えてる」

 正確には夢で思い出したのだ。少女(トーコ)と見たあの景色を。

「……私とワタルは、あの年の夏だけしかリトルウォーズを見ていない」

「……だろうな。それ以降でオレサマはトーコといた記憶がない」

「……それはあの年で私は遠くへ引っ越してしまったから」

 引っ越した、その言葉が頭の中をかけめぐっていた。何かを思い出せそうな、しかし、それでいて手を伸ばすと遠のいていきそうな。

 パズルのピースを一つずつ解いていくように、慎重に記憶の糸をたぐり寄せていく。

(……ワタル君。あのね……私、引っ越さないといけないんだ……)

 ふと一つのピースが音を立ててはまる。そう確かにあの時に桐華はそういう事を言っていたのだ。

(ごめんね。突然……だったよね? でもね、私達が高校生になったぐらいにね、なんとか戻ってくるからね……私は、ワタル君より一つ下だから、次に会う時は私が高校一年生で、ワタル君が高校二年生だね。……えっ、なんで高校生になったらなのかって? それは……)

 一つの糸をたぐり寄せていくと、一体なぜ今まで思い出せなかったのかと、自問自答するほどに記憶が蘇ってくる。

 先ほどの混濁した意識が、徐々に鮮明になっていく感覚をワタルは覚えていく。

「お前は……」

「……あの人との、速水仁さんとの戦いを見てた」

「っ……!?」

 突然、現実に引き戻されたような気分になる。あまり良い気分とはいえない。元を正せば今の自分がこんなにも落ち込んでいるのは、速水仁にボロ負けしたからだという事を思い出す。

「……もうあの人とは戦わないの?」

「いや……戦うさ」

「……嘘つき」

 その一言がワタルの心の中をえぐった。当然である。

 ワタルは言葉でこそ「戦う」といったが、その言葉の中に「勝つ」という感情がこもっていない事を桐華に見透かされる。それがその一言。

「……ワタル」

「えっ!?」

「……今度は私もいるから。もう一度、戦って……全力(マックスハート)で」

(……えっ、なんで高校生になったらなのかって? それは……そうすれば私もワタル君と一緒に夢を追える(戦える)から……)

 今、ワタルの中で最後のピースがはまった。パズルは完成した。

 幼き日の夏。少女と出会った夏。それは幼いワタルにとってはかけがえのないもの。

 しかし、突然訪れた別れは、その時のワタルにショックを与える。人との別れの辛さ、それは万人に与えられる一つの試練であり、いつか訪れる苦痛。

 ワタルにとって、こんなにもショックを与えたのは桐華が、かけがえのない人だったからなのかもしれない。

「……トーコ」

「……全力で走るんだ。どんな相手が出てきたって、全力で走る。そいつが凄い奴で強い奴で、全力でやって勝てない奴がいても、もっと全力で練習して、もっともっと全力でやって勝つ。そしたら優勝だ」

「ハハ、よく覚えてたな、それ」

「……うん。次は……もっともっと全力、だよ」

「あぁ!!」

 戦いの心の空白感が埋まっていく。圧倒的な才能を見せつけられ、一瞬でも戦意を失われてしまった。それなら全力である。今の自分に足りない部分は全力で補い、そして全力で挑戦し、全力で勝つ。

 もしかしたら、自分よりも自分を見ていた桐華にそれを気づかされる。

 いつしか、周りに人も集まり始め、夏の太陽が本格的な活動を始める。

「トーコ!」

「……?」

「遅くなったけど、最後の夏になっちまったけど、一緒に戦ってくれないか」

「……うん!」

 四人目の全力(マックスハート)、桜井桐華がメンバー入りした瞬間である。


 ――試合開始も残り時間迫る中、ヒロキとかながやってくる。

「おーい、兄貴!」

「ワタルくーん!」

 いつものように、ワタルを向かえてくれる二人。それが戻ってきた時にワタルがほしいと、わかっていたからこその反応。

「トーコ、紹介するぜ。マックスハートに所属する頼れる仲間だぜ!」

 ワタルの復活と、新しい仲間を連れて、マックスハートは予選トーナメント二回戦へと挑む。

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