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MAX HEART!  作者: ユウ
――夢の中の少女編!
17/58

夢の中の少女・前編!

 ――予選トーナメント第一回戦が行われてから二日後。七月二十日。

 速水仁との戦いに敗れたワタルは、ヒロキ達の手により病院へと運ばれる。持ち前の回復力で体力の面では「ほぼ完治」したものの、問題は精神の回復である。

 ワタル達が不在の中、在校する学校は夏休みを向かえていた。学校には、部活をする者、補習を受ける者、ただの暇人の集いなど、生徒は思い思いの事をしている。


 ――今では恒例の「屋上」にて、昼の支度をしている。

 さんさんと照りつける太陽を避けるように、日陰を陣取り、そこにシートを引く。その上にこれも恒例となった、かなの手料理(ひるめし)を囲うように座る。


 ――ただ一人を除いて――


「ワタル君……今日も来ないのかな?」

「うん。僕も兄貴がどこにいるのかわからないんだ」

 二人で昼食を口に運ぶ。どこか素っ気ない。

「悔しかったんだと、思う」

 食べるのをやめて、ヒロキは話し始める。かなも黙って、その話に耳を傾ける。

「正直、僕だって悔しいし……何よりもずるいって思った。安っぽい言い方だけど、あれは才能なんだって」

「うん、そうだね……」

 一回戦を突破した矢先に、どん底へと突き落とされた気分を味わう。

 その「絶対的な才能」を前にする。これを越えなければいけない、最大の才能(かべ)である。

「ヒロキ君。でも、越えなきゃいけないんだよ。かな達ができるのは、ワタル君が復活した時に向かえてあげる事じゃないかな」

「うん。一番ショックを受けているのは兄貴のはずだからね……」

 夏の太陽の下、二人はワタルの復活を待つ。 それができる最大の事であると信じて。


 ――ワタルは病院から出てから、自分の部屋のベッドに寝ていた。

 前向きが取り柄のワタルだが、内心のショックは大きい。今まで、どうしようもなく強い敵と戦った事は幾度となくある。

 しかし、それはただ「強かった」それだけの事である。絶対的な才能を見せつけられ、自分の考えていた事の愚かさを知る。

「…………」

 ただ沈黙。何も話したくなかったからだ。

 悔しい感情も、悲しい感情も何も出てこない。何もできなかった敗北という真実が、ワタルの頭の中を真っ白に染めている。

 考えれば考えるほど、頭の中の白は深く、そして大きく広がっていく。

 その一面の真っ白が嫌になり、わざと大きな溜息をついて頭の白を消し去る。だが一瞬の事で、すぐに頭の中には白が充満していく。今はその白をどんな方法でも良いから、消し去りたいという願望だけがあった。

 目を瞑ると、その白は消える。今度は一面の黒がワタルを覆った。まだ(こっち)の方が良いと考え、ワタルはひたすら目を瞑り続ける。

 そして気がつかない間に、ワタルの意識は混沌の中へと墜ちていった。



 ――見覚えのある景色が広がっていく。

 この景色は一体なんだっただろうか。ワタルは頭を働かせ、なんとかその景色を思い出そうとする。

 思い出そうとすると、辺り一面に聞こえてくる怒号の大歓声が、頭に響く。

(うるさい! 思い出せねぇじゃないかよ!)

 その正体不明の歓声に、一人で悪態をつく。そんな一瞬、脳裏にそれがかすめる。

(あ、思い出した。これは俺が見てきた過去のリトルウォーズだ)

 そう、そこには決勝戦を戦う参加者と、それを応援する観客の姿がある。まるでお祭り騒ぎのような、大熱狂が見える。

 まだ小さいワタルは、いち早く良い場所を陣取り、特等席でその戦いを見ている。

「いけーっ、そこだ、ぶっとばせー!!」

 剣術や格闘術のいろはもわかっていない。わかっているわけがない。

 ワタルにとって、決勝戦(ここ)は夢の舞台。自分が何回も見てきて、自分もこの舞台に立ちたいと、そんな色あせない夢を大きくしていっている。

 しばらくすると、その決勝戦も終わりを向かえる。どっちが勝っても良かった。

 幼い頃のワタルは、特別応援をしているチームがあったわけでもない。ただリトルウォーズ(ちゃんばら)が好きだった。だから木刀のような木の棒を探し回った事もある。

 いつも戦いを見ては、真似をするように棒を振るった。勿論、それで満足するはずも無かったが、そうする事で参加できない鬱憤を、晴らした。


 ――そして、一年が経ち再び夏。リトルウォーズの季節がやってきた。

 毎年恒例の当たり前の事。日常的に会場に足を運んで、一試合目から試合を見る。会場が二つあるなら、全速力でダッシュして会場を目指した。

 一試合目から決勝戦まで、全ての戦いがワタルにとって光輝いていたのだ。

 そんな、とある日の事。いつものように会場に足を運び、走り回っている。

「きゃっ!!」

「あっ、ごめん、大丈夫?」

 他の会場に行くのに夢中だったワタルは、人にぶつかってしまう。

 当然の話だが、リトルウォーズは「教育上宜しくない」として、小さい子供を会場に行かせはしない。ワタルも止められていたが、親の目を盗んでは会場に来ていた。

 ぶつかった人を見ると、どうやら女の子。ワタルよりも一つか二つ年下の女の子だろうか。長い髪をポニーテールで結んで清楚な感じがする。

 急いでいたが、放っておくわけにもいかないので、ワタルは女の子に手を貸して起こす。

「ごめんな! 怪我は無かったか!?」

「…………」

 女の子は、転んで泣くわけでもなく、かといって怒っているわけでもなく、無表情にワタルを見ている。その漆黒の瞳は、見つめていると吸い込まれてしまいそうになる。

「あ、あのさ……大丈夫? ……えと、俺急いでるんだけど、さ」

「……好き」

「えぇ!?」

 突然、女の子に「好き」と言われ困惑する。一瞬だが、会場に急がなければいけないという事を忘れる。

「……リトルウォーズ」

「え?」

「リトルウォーズ……好き?」

 ワタルはちょっとガッカリする。だが、その女の子の問いに考えもせずに答えた。

「当たり前だろ、俺はリトルウォーズが大好きさ!」

「……そう。良かった……」

 わからないぐらいに、女の子は微笑む。その小さな微笑みをワタルは可愛いと思う。どこか神秘的な雰囲気を漂わせていたが、ワタルは「良い奴」と判断する。

「お前は?」

「……え?」

「お前は、好きなのか。リトルウォーズがさ?」

「……うん」

 少し間をおきながら、遠慮がちに頷く。

 ワタルが少し驚いていたのは、女の子でもリトルウォーズが好きな奴がいるという事。事実、この当時の大会には女の子の姿はほとんど見られず、男しかいないのではないかと思える程だった。

 まさしく男の為の、男の戦い。ここ数年で、その傾向は薄れ女性参加者が増えていってはいる。

「じゃあ、一緒に行こうぜ!」

 ワタルは女の子に手を差し出す。

「……でも、ママが知らない人についていっちゃ駄目だって……」

「む……、ふぅ。俺はワタル、響ワタルだ。いつかリトルウォーズで優勝する男なんだぜ!!」

「響……ワタル君……」

「あぁ、ワタルで良いぜ」

「じゃあ……ワタル君。私は、桐華、桜井桐華(さくらいとうか)、です」

 女の子の名前は桜井桐華。常に遠慮がちだが、とても礼儀正しいと思える雰囲気を持っている。

 改めて手を差し出したワタルの手を、躊躇(ためら)いながらも握る。

「行こうぜ、『トーコ』!!」

「……うん!?」

 次の会場へ向けて、二人で走り出す。何故、トーコなのか疑問に思いながら。

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