必殺ぶったぎり!
――必殺技・ぶったぎり!
その一言を発して、ワタルは力強く山なりに弧を描くように飛ぶ。
そのスピードは遅い。遅いといっても、並の相手には速く感じる勢いである。だが江藤に限ってはそれにあてはまらない。
江藤の程のプレイヤーからすればワタルのモーションを見ながら、いなすも良し、カウンターをするも良しだ。肩に担いだ愛用の木刀は、空中においても「タメ」の姿勢を崩さない。
「響君。それが必殺技だって!? パワーはありそうだが……この勝負、僕たちがいただくよ!」
やはり江藤には、ワタルのモーションが読めている。事実、ワタルの動きを見ながら捌いてから、カウンターをあびせようとしているのがわかる。
対するワタルは、そんな事も構いもせずに直進する。いや、どっちにしても大きなモーションの空中姿勢では今更やめる事もできない。
時間にすれば二秒もないぐらいの時間だろう。しかし、時間が止まったかのように見えたその読み合いにも終わりが来た。
「おおおおおぉぉぉぉ!!」
「っ……!!」
突然、叫びだしたワタルに呼応するかのように、江藤も構える。
肩に担いだ木刀を両手で持ち、力の限り相手に叩きつける。対する江藤は、今までの剣の捌きのように、ワタルの攻撃を受ける。
そして、ワタルと江藤の木刀が合わさった瞬間だった。
「…………!?」
江藤の木刀を持つ右手に、まるでハンマーで叩かれたような重圧がかかる。咄嗟に、捌ききるのは不可能と判断し、剣の腹を盾にして両手で防御の姿勢をとる。
「なっ……!!」
両手で受けたにもかかわらず、江藤にその重さを耐える事ができない。
いや、正確には耐えられないのは、その江藤の剣。
「残念だったな江藤。俺の「ぶったぎり!」はヒロキいわく……」
「……武器破壊剣!!」
ワタルの言葉に続くように、ヒロキは言葉が出ていた。勿論、ヒロキは合わせる気も無かったはずだ。
木刀の耐久力を無視するかのように、まるでオモチャの剣が壊れたように、音を立てて江藤の剣が破壊される。
そして、その勢いのままに着地する。着地の衝撃が、遠くにいる見物人にも伝わるかのような迫力。
かなの落星撃が披露された時のように、会場には一時の静寂、次には大歓声が巻き起こる。
「江藤君、君が続けると言うのなら、私は止めはしないがどうするかね?」
黒子が武器を失った江藤に、続行の意志を聞く。
「いえ……剣を失った時点で……僕の、負けです」
「わかった。二対一にてマックスハートの勝利とする!!」
黒子から高らかに、勝利宣言がされる。再び巻き起こる大歓声。
「響君。完敗だよ……まさかあんな大技だとはね」
「当たり前さ、何年も前から天下取るために、暖めておいた技なんだからな」
「そうか、君の意志は固いようだね。……僕たちの分もがんばってくれよ、応援する」
「サンキュな。お前らの魂も、連れていってやるからな!」
江藤とガッチリと握手をかわす。改めて手を握ると、江藤というプレイヤーの凄さが伝わってくる。
戦った者同士にしかわかりあえない感覚である。
江藤はそのまま、仲間達の元へと戻っていく。ワタルも後ろに待つ仲間達の元へと戻る。見知った顔がそこにはあった。
「兄貴!」
「ワタル君!」
ヒロキとかなが、ワタルの、いや、マックスハートの勝利を祝福してくれる。
「バッカヤロ、これはみんなで取った勝利だぜ!」
「僕は、負けちゃったけどね」
顔を腫らしたヒロキが照れ笑いを浮かべる。そんなやりとりを見る、かなが楽しそうに笑う。
全勝とまではいかなかったが、これはみんなで掴んだ勝利である。
「さって、このまま天下一まで行こうぜ! まずはFエンゼルだぜ!」
「……へっ、あの程度でFエンゼルをやろうとは……笑える話だぜ」
ワタルの言葉を小馬鹿にするような口調で、その声は聞こえた。
「なんだと、コラ!」
その言葉に黙っているワタルではない。声がした方を向き、相手に睨みを利かせる。
そこには髪の毛を逆立たせた、非常に目つきの悪い男がいる。身長はワタルよりほんの少し高い。恐らくは175cm前後、体つきはやせ型だが、見るからに柔らかいしなやかな筋肉を身に纏っている。
木刀を持っている所を見ると、プレイヤーなのだろうがワタル達はその木刀を見て、驚愕する。その木刀は、男の身長と同じかあるいは長いぐらいの長刀である。
「あの程度の雑魚を倒したぐらいで、図に乗られても頭にきちまうからなぁ」
「っだと、コノヤロー」
「何度でも言ってやる。雑魚を倒したぐらいで調子こくなコラ」
一触即発の雰囲気に、ヒロキとかな、いや、その近場にいた全員が動けないでいる。
ワタルの怒気に触れただけでも動けなくなるぐらいだが、目の前の男はそんな事も気にもとめない様子でワタルを睨み付ける。
むしろワタルの怒気よりも、この眼光の方が動きを止めさせる。まさに蛇に睨まれた蛙の状態そのままである。
「なんならここで殺ってやっても良いんだぜ? 変な言い訳しねぇならな」
「てめぇ……!」
安い挑発だが、今のワタルには火に油。怒気から殺気へと変わったのが嫌でもわかる。
「どうしたよ、ビビってんのか? 小魚が」
「上等だよ、殺ってやんよ、コノヤロー!!」
怒りの声と同時に、ワタルはその男に向かっていく。一試合終えたばかりにも関わらず、その速度は一番速い。右手に持った木刀で、男を思いきりぶったぎる。
男は木刀を盾にしてワタルの攻撃を受ける。が、その受けた腕は衝撃によって大きく激しく、ブレる。
お構いなしに、手加減無しの全力攻撃を浴びせ続けるワタル。男の腕はその攻撃を受けるたびに、吹き飛んでしまうのではないかという程、弾かれる。
「おかしい……」
「えっ!?」
「あの人の受け方受け切れてなくて、あんなに激しくブレてるんじゃないような気がするの」
かなは男の受け方に、違和感を感じている。いつものワタルならば、そんな事にも気がついていて良いはずなのである。
実際、男の腕の弾けようは異常である。普通ならばどんなに強い攻撃でも、こんなにもブレたりはしないはずである。
「おいおい、いつになったら俺を殺ってくれんだ、えぇ!?」
「こっ……の!」
挑発により、さらに攻撃の度を増す。しかしその攻撃は全て直撃には至らない。
むしろ第三者目線から見ると、ワタルの剣が攻めているのではなく、男の剣が遊んでいるように見えてしまう。
「そらよ!」
受けに回っていた男が、初めて攻撃をする。その剣線は一般的な剣のように直線的ではなく、蛇行的。文字通り蛇のような剣線である。
スナップの効いたどころの話ではない。効き過ぎたその剣線は下からとも、横からともつかないような位置からワタルを襲う。
「っ……!?」
持ち前の反射神経で、突然の攻撃を間一髪で避けるワタル。
そのスナップの効いた剣線は、ついさっきまで戦っていた江藤の比ではない。
「ほぉ、避けたか。頭はクズでも、運動神経だけはまぁまぁだな」
「…………」
その一撃で怒りが支配していた頭は吹き飛んでいた。ワタルは一瞬で目の前の蛇が、ただの蛇ではない事に気がつかされる。
「ま。俺も暇人だからな、少しは遊んでやるぜ?」
男は中腰になり、手をブラブラと揺らし始める。まるで間接でも外れているのではないかと、錯覚させるぐらいに柔らかい腕の動きである。
蛇の目が――ワタルを捉える。