江藤の罠!
黒子の合図により、リバティーズ対マックスハートの大将戦が始まる。
相手は大将であり、リーダーの江藤一。木刀一刀にして構えは手本のような中段の構え。中段は構えの中でも最もポピュラーな構えである。
一回戦の相手だからと侮ってはいけない。現に目の前の江藤からは凄まじいぐらいの気迫を感じる。
「君たちもそうだけど……僕たちも負けられない。お互いに大将戦を落としたらお終いだからね」
「そうだな」
「全力でいかせてもらうよ。悪いけど君たちを、踏み台にさせていただく!」
一気に間合いを詰める江藤。その突進力は凄まじいものがあり、一瞬でワタルの懐に飛び込む。
逆にいうなら、ワタルが簡単に懐を許す程の速度。見た目や口調に騙されたが、江藤は強い。
「はぁっ!」
気合と共に、剣線を横に走らせる。その剣線は鋭く、ナイフのような切れ味を連想させる。木刀のはずなのに、真剣で切られたような錯覚を起こさせる。
しかしワタルも、その剣線を上手くさばいてみせる。並の相手なら初撃 でやられている。
「ふぅ……とんだ伏兵だぜ。一回戦からアンタみたいなのと当たるとはさ」
「それは僕も同じ事さ。最初の横薙ぎで完全に仕留めるつもりだったからね」
柔らかい物腰とは裏腹に、その気質は非常に攻撃的。剣線もそうだが、動き、気質、どれをとってもナイフである。
ワタルも木刀を構え直し、江藤の攻撃に備える。若干だが速度は江藤が上。下手に先手を取ろうとすると、逆に手痛いしっぺ返しをもらう事になりかねない。
「――行くよ!」
言葉と同時に再び一足飛びで、一気に間合いを詰めてくる。
しかし、ワタルもその一足飛びに反応する。速度は負けているが、反応速度ならワタルに分がある。江藤の剣線を再び捌き、反撃する。
江藤の肩口を狙うように、右袈裟を狙う。読んでいたかのように、その一撃を江藤はいなす。その動きは、まるで木の葉のよう。実戦と経験に裏打ちされた動き。
避けた江藤に反撃をさせず、ワタルは手数で押していく。その攻撃のほとんどを木刀を盾にして、華麗に捌いていく。
「コノヤロー……」
ほとんど空振りに近い事をやった為か、ワタルの呼吸が少し乱れつつある。いつも素振りもして鍛えているワタルが、この程度の戦いで呼吸の乱れが生じるなどあり得ない事である。
「あそこまで動かしたのに――その程度の乱れか。なかなか鍛えているね」
「……何!?」
「普段の君ならば、この程度の攻防で息が乱れるなんて事は無いのだろうね。しかし君の呼吸が著しく乱れたのには理由がある」
汗を流し息があがっているワタルに対して、一人だけ余裕の表情を浮かべる江藤。
ワタルはその態度を「とある男」に連想してしまい腹が立つ。
「まず一つ目。君の運動能力には正直な所、感服する。僕が今まで試合をしてきた中でもピカイチの能力だ。だが君には絶対的な『経験』が足りない」
「経……験……だと」
「そうだ。君はこの舞台で緊張しているんだ。緊張は何よりも体力を消耗させるからね」
これは事実である。確かにワタルはリトルウォーズに参加できた事により、嬉しさもあったがそれ以上に緊張感が支配している。
いつもの練習試合でみせるような、柔軟な動きが緊張によって固い動きになってしまっている。
この事がワタルの体力を消耗させた一つの要員。
「へん! 緊張なんてしてるかってんだ!」
ワタルは更に加速する。その速度は第一撃の動きを大きく超えている。
そして、強烈な攻撃を江藤に向ける。その攻撃は一撃目同様にいなされる。
「……!?」
「気づいたかい。この感覚に?」
ワタルの攻撃は江藤から大きくそれている。ただの空振りではなかった。
「僕の得意技の一つでね――相手の攻撃を必要以上に大きく空振りさせる」
これが江藤の技。初舞台による緊張と、江藤のいなすテクニックにより、ワタルはいつも以上の体力の消耗をさせられている。
「そして弱った相手は僕の攻撃を避ける事はできない!」
再び、ナイフのような斬撃がワタルを襲う。
ワタルはこれを紙一重で回避する。しかしその斬撃を完璧に避けるに至らず、頬をかすめ赤い血が滲む。
「……まいったな」
体の重さを感じている。思っている以上に体力の消耗が激しく、ワタル自身も焦りが生まれてくる。
「悪いね。君たちには一回戦 で消えてもらうよ」
獲物を射程内に捕らえた江藤の攻撃が始まる。練習により、何発も打ってきた斬撃は消耗したワタルには、避けるのも酷なものである。
ワタルは避ける足が動かずに、木刀を盾にして江藤の攻撃を耐える。
木刀を盾にしているとはいえ、鋭く重いその斬撃はさらにワタルの体力を奪っていく。
「くっそ……!!」
かろうじて反撃の一撃を振るっても、わかっていたかのように攻撃をいなされる。
ただでさえ大振りなワタルの攻撃が、さらに大振りの空振りにされる。おまけに夏の太陽により精神までも消耗させられていく。
「タフな人だ。よくもここまで耐えられる……」
今まで涼しい顔をしていた江藤にも、若干の疲労が見て取れる。
ワタルは反撃の糸口も見つけられずに、ただ江藤の攻撃に耐えている。
「どうした……そんな程度の攻撃じゃ、オレサマは倒れないぜ」
ワタルの顔、体にはまるでミミズ腫れのように赤い線が浮き出ている。それだけ江藤の攻撃はスナップの効いた攻撃である。
「はぁ……はぁ……。なんなんだ、そのタフさは。ただ打たれ強いだけでは説明がつかない……」
「当たり前だろうが!」
「……何?」
「オレサマ達は優勝するんだ。こんな所で負けられるわけねぇだろうが!」
ワタルという人間を支えているのは、類い希なる身体能力ではない。その絶対不動の精神力である。
「そして優勝する為には……マックスハートだ!!」
愛用の木刀を、まるで大剣でも担ぐかのように構える。下半身も大股に開き、重心を完全に地面に伝える。
体中はボロボロだが、防御に回ってただ耐えていた分の体力を回復させる。対して江藤は今までの攻め疲れから、息を荒くさせ大量の汗をかいている。形勢は逆転する。
「兄貴……『あれ』をやる気だ」
「え……。あれって?」
ヒロキはわかっている。ヒロキにも必殺の「みだれうち」があるように、ワタルにも必殺技がある。
かなとの、戦いにも見せる事のなかった大技。
「一回戦突破はオレサマ達だ! 行くぞ、必殺ぶったぎり!」
持てる全能力をその攻撃に乗せて、ワタルは江藤に向かう。