表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
MAX HEART!  作者: ユウ
――一回戦目の試練編!
13/58

ヒロキ奮戦!

 会場に一時の静寂。そして大歓声が巻き起こる。冷めた観客の態度は、一気に熱く上昇する。

 先鋒戦――かなが、西岡を倒しマックスハートに白星が飾られる。

「ったく、危ねぇ戦い方しやがって!」

「大事な先鋒戦でしょ? インパクトは大事と思ってね」

 かなは、ワタルの考え方を見抜いている。初戦の先鋒戦だからこそ、インパクトが必要。

 マックスハートというチームの存在を、観客に示すには効果抜群の魅せ方。

 その効果は観客だけではなく、相手チームにも及ぼす。先鋒戦開始まで、自信に満ちていたリバティーズの面々も、かなの落星撃の前に唖然とする。

 精神的な奇襲攻撃は、まさしく大成功といったところであろう。

 そして、これがワタルの狙い。中堅のヒロキは間違いなく緊張で、いつもの動きができないはず。それは長い付き合いのワタルからすれば、手にとるようにわかる心理。

 この奇襲攻撃で相手も、気負っている。単純計算すればこれで五分五分であり、ヒロキに勝機ができる。

 勿論、ワタルはヒロキが負けるなんて事は思っていない。むしろ気負っているのは、ワタルの方なのかもしれない。

「さて、次の中堅戦はヒロキだ! 気張っていこうぜ!」

「うん、兄貴!」

 ヒロキは気持ちの良い返事をする。思いの外、緊張は見られない。

「それでは、中堅戦――リバティーズ金田徹雄(かねだてつお)と、マックスハート川崎ヒロキの試合を行います!」

 木刀を握りしめ、ワタルに似せた青い気合ハチマキを、額に巻き付ける。呼吸を整えて、神経を集中させていく。

 いざ試合が始まるとなると、やはり緊張する。鼓動が徐々に高鳴っていくのがわかる。

 バトルリング中央に行くと、既にリバティーズの金田はいる。かなの技を見た後の為か、それなりに動きが堅い。お互いに緊張しているのだ。

「中堅戦――始め!」

 黒子の合図で、中堅戦が開始される。先鋒戦が開始された時に、適当に見ていた見物客も、かなの効果で今回は最初から視線が釘付けである。

 良い傾向だが、ワタルはそこに「嫌な予感」を感じる。

 ヒロキは、木刀一本の我流中段。

 金田はいわゆる喧嘩スタイルなのか、こちらも我流。やはり予選始めの方では、そこまでの手練れはいないようにも見える。いわゆる素人に当たる確率が高い。

 当然の話だが、構えがめちゃくちゃ――いわゆる我流だからと「弱い」「下手」という事は当てはまらない。予選第一回戦だからと思いこみで、戦ってはいけない。現に、かなの相手の西岡は一撃で負けはしたものの、相当な手練れだった。

「行くぞ、オラ!」

 金田が先手必勝とばかりに、ヒロキに向かい走る。先ほどの西岡と違い、格闘家ならではのステップはない。

 大振りの拳を、木刀を盾にするようにして捌く。捌きながら間を離すヒロキ。

(相手の武器(エモノ)は、拳だ。間合い(リーチ)は僕が有利だ!)

 ヒロキは自分の武器と、相手の武器による適正距離を把握する。リーチを活かして戦うのも戦術では、必要不可欠な事である。

 木刀で距離を計りながら、一定の間合いをキープする。金田の拳は西岡の拳と違い、大振りで遅い。遅いというには少し違うが、喧嘩の拳とボクサーの拳を比較しての事。

 金田の大振りを見計らい、そこに一撃を与えていく。切っ先を当てている為に、致命的なダメージにはならないが、確実に体力を奪っていく。

「ヒロキ君、良い攻め方だね」

「だろうな。あぁいった戦い方はヒロキの性分だ」

 ワタルと、かなから見てもヒロキの戦い方は安定して見える。派手さは無いが、堅実でセオリー的である。

「ちぃ……この野郎がっ!」

 ちまちまと攻める戦い方に苛立ちを感じたのか、金田は攻撃を受ける事も気にせずに、拳を振る。

「……ぐっ!」

 その大振りの拳が、ヒロキの顔面を捉える。

 衝撃で大きく後方へとよろける。拳自体はなかなか重いらしい。

「ふん。ちまちまとウザってぇんだよ!」

「くそぅ……!」

 今の一撃で足にきている。決してヒロキが打たれ弱いわけでもない。意外にも金田の拳の威力が高い。

 ワタルからすれば優男に見えたが、ヒロキにとっては金田も屈強な男に他ならない。

「この中堅戦で、負けたら俺達は終わりなんだ。さっさと終わらせてやるぜ!」

 金田の拳が、ヒロキに襲いかかる。先程のただの大振りとは違い、気合も乗り早さを増したようにも見える。

 盾にする木刀越しに、拳の重さが伝わる。この拳が直撃すれば、間違いなくKOされるだろう。

「おらぁ!」

 攻撃の重さに耐えられずに、吹き飛ばされるヒロキ。

 見ると、審判黒子は試合を止めようとも見える。予選第一回戦クラスで大怪我でもされては困るからだ。無理をして大怪我をさせない為の配慮ともみえる。

 間違いなく、このまま金田の拳に押され続ければTKOは必至だろう。

「よしっ……」

 ヒロキは攻めに転ずる決意をする。手数には手数で相殺する構え。

「必殺……みだれうち!」

 金田に走り込みながら、無数の剣線を繰り出す。かなとの練習試合にも見せた、必殺のみだれうちである。

「な、なんだと!?」

 あまりの剣線の多さに身を固め、防御態勢になる金田。いや、防御態勢でなければ金田は防げない。

 木刀が体を打つ音が、まるで機関銃(マジンガン)のように聞こえる程の手数。一瞬でもガードを外せば、下手したら致命打をもらいかねない。

 本来のみだれうちの、効力はこうなるはずだった。かなのように、迎撃できる程の能力は希である。

「ってんだよ……コラ!」

 みだれうちを耐える事に、業を煮やした金田はやぶれかぶれの一撃をヒロキに向ける。その拳は運良くも無数の剣線に妨げられる事もなく、ヒロキの顔面へと直撃する。

 拳をもらった瞬間に、ヒロキの視界は真っ黒になる。一発で意識を断ち切られてしまった。

「そこまで! 中堅戦はリバティーズの金田の勝利とする!」

 黒子による勝利宣言。それはマックスハートのものではなく、リバティーズのものだった。

 奮戦の割の呆気なさ。ある意味では、実力が拮抗していたからこその結果であろう。似たようなパワーバランスの相手との戦いは、極端に長引くか、極端に呆気なく終わるかの、どちらかになるパターンが多い。


「おーい、ヒロキ!」

「ヒロキくーん!」

 結局、ヒロキが目を覚ましたのは三十分後の事だった。

 黒子の判断により試合は一時中断。大将戦は予定よりも遅い開始時間となる。

 ワタルとかなに、たたき起こされてヒロキの意識が戻る。余程のパンチをもらったのか、わずか三十分でヒロキの顔面左側は大きく腫れ上がっている。

「そこまで腫れちまうと、左側の視界は見えないだろ?」

「うん……見えないね」

 負けた事への悔しさか、あるいはパンチをもらったショックか。ヒロキの声には元気がない。

「まぁ、負けちまったもんはしょうがねぇさ!」

「でも、兄貴。僕が緊張しないようにした作戦……だったんだろ?」

「……バーカ。良いからあとはオレサマに任せとけってんだよ」

 落ち込むヒロキに、ワタルなりの励ましを送る。

 赤い気合ハチマキを頭に巻き付け、木刀一本を握りしめる。バトルリングへ向かうワタルの背中を、ヒロキはただ見送る。

「ヒロキ! オレサマは負けねぇさ、安心してそこで待ってろ!」

 それだけを言い残し、黒子とリバティーズリーダーの江藤が待つ中央へと歩む。

 西岡と金田が、拳主体の戦い方の為に江藤も同じタイプかとワタルは思っていたが、木刀を持っているところを見ると剣術主体。

「待たせたな!」

「いや。仲間の様子は大丈夫かい?」

「あいつは、あんなもんでヘコたれるような奴じゃねぇさ」

 敵のチームメンバーの事を気遣うあたりに、この江藤という男の優しさを感じる。

 リトルウォーズの参加者の多くは、いわゆる「不良」連中が参加する事も多い。いわゆる「ボコして終了」という人種が多く、大体の人間は相手チームの心配などしない。

 最も、この江藤がそういった意味で希な人種というわけでもない。近年の参加者はマナーやモラルを重んじる人も増えてきている。

「それではこれより、リバティーズ対マックスハートの大将戦。江藤一と響ワタルの試合を行います!」

 黒子により、最終戦という旨を高らかに宣言される。

「悔いの無い一戦にしよう、響君」

「当たり前だ! オサレマ達はこんな一回戦でやられるわけにはいかねぇからな!」

 お互いの木刀を高く掲げ、それを十字に合わせる。木と木が当たる乾いた音が、辺りに響く。

「それでは……大将戦。始め!」

 リバティーズ対マックスハート。大将戦がついに始まる。

 響ワタル――念願のリトルウォーズ初試合である。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ