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失礼な公爵令息

 お目当てのスイーツカフェに着いた。パステルピンクとオフホワイトで彩色されたお店は可愛らしく、チープな感じがキュートだ。

 店内の席は埋まっていて、少し待ってから案内された。何もかもが新鮮でワクワクする。出かけた先で待たされた経験がない。お待ちしておりましたと恭しく出迎えられることに慣れきっていた。


 二人掛けの小さな席に通され、ウェズリーと向かい合って座った。手書きイラスト付きのカラフルなメニューを開き、顔を突き合わせて食べたいものを決めた。

 注文を通し、先に届いたハーブティーを飲んでいると、少し離れた席の女の子二人組がこちらをチラチラ見ていることに気づいた。

 私が王女であることに気づいたのかと思ったが、どうやらウェズリーのほうを気にしている。耳を澄ませばヒソヒソと聞こえてくる。


「あの子、かっこいいね」

「綺麗な顔してるよね。品がある」

「多分お城勤めの子だよ。近くだし、一緒にいる女の子、お城勤めの服着てるもの」

「なるほど。若いのにお城で働いてるんなら貴族筋かも。コネがないと入城できないんでしょ」


 下世話な詮索に少しげんなりする反面、胸のうちで得意になった。

 そうでしょう、ウェズリーはかっこいいでしょう。平民服を着ていてもオーラを感じさせる。さすが我が弟だ。ウェズリーの只者じゃなさを見抜くあなたたち、なかなかやるわね。


 フフンと鼻を高々していると、会計へ向かう男性客が、横を通り過ぎようとしてピタリと足を止めた。


「あれ? 君、まさかこんなところで会えるなんて」


 緩やかにカールした見事なブロンドヘアにサファイア色の瞳。背が高く、がたいが良い。どこかで見たような気がするが、男が話しかけている相手はウェズリーだ。


「え?」


 とウェズリーはきょとんとした顔を返した。


「あれ、まさか俺のこと覚えてない? モニーク姫のバースデーパーティーで、挨拶したんだけど。モーリス・ラッセル・ストライド。思い出した?」


「あっ」と小さく叫んだのは私だ。

 父の古い仲間の一人、ドランスフィールド公の息子だ。公爵令息、モーリス・ラッセル・ストライド。名前は正確に記憶しているが、顔をまじまじと観察したことはないので、うろ覚えだった。

 この手のチープでキュートなスイーツカフェでばったり会うなんて、思ってもみないし。モーリス卿もお忍びなのか、地味な服を着ている。


 私を見て、モーリス卿はおっという顔をした。


「これはこれは、ジェラルディンさま。気づきませんでした、失礼。お忍びですか?」


「ええ」


 と簡潔に答えた。お互い、見るからにお忍びなのだから、名乗ったり名前を呼んだりしないでほしい。空気を読まないタイプの人だ。父親のドランスフィールド公に似ている。


 チラッとこちらを見ていた女性二人のほうを見やると、しゅぱっと視線を逸らされた。


「やば。あの人絶対貴族だよね」

「超美形。目の保養」


 話題の的はモーリス卿に移ったらしい。会話の内容は把握していないようでほっとした。


「一つだけお聞きしたいのですが……」


 とモーリス卿が声を落として言った。


「お二人は《《そういう間柄》》ですか? パーティーのときにも思ったのですが、姉弟というよりはまるで恋人のようですね」


 はあ!? と思わず大声を出しそうになった。

 何なのこの人は。失礼極まりないし、空気を読まないにも程がある。


「まさか。仲の良い姉弟です。くれぐれも変な風に他言なさらないでください。今日ここで会ったことは、見逃していただけると感謝します」


 口止めは必要だ。モーリス卿が父親に話せば、私たちの父の耳にも入ってしまう。

 こっそり城を抜け出してウェズリーとデートしている先で、私たち二人を知っている者にばったり会うなんて不運すぎる。


 真剣な目を向けると、モーリス卿は不敵な微笑を浮かべ、分かりましたと応じた。


「誰にも告げ口しないことをお約束いたします。貸しですね。覚えておいてくださいね」


 では失礼、と立ち去ったブロンド頭を恨めしく目で追った。

 貸しですね? 王女に対して終始不遜な態度だ。分かっている、モニークには誰もこんな態度は取らない。私だから舐められているのだ。


「失礼します」と声がかかり、モーリスが去るのを待っていたらしき店員が、パンケーキをテーブルに置いた。

 ふわふわ生地のパンケーキにたっぷりクリームと鮮やかなフルーツが乗っている。


「わあ」


 とウェズリーが感嘆の声を上げた。


「どっちも美味しそうだね。半分食べて交換しよう」


 明るく言いながら、カラトリー入れから取ったナイフとフォークを手渡してくれる。


「うん。ねぇウェズリー、さっきの公爵令息……」


「気にしなくていいよ。今は目の前のスイーツを満喫しよう」


 さらっと言って、私に笑いかけるウェズリーに頷いた。ウェズリーが微笑めば、私の憂いが一気に吹き飛ぶように感じる。

 誰にも使えない魔法を使う弟と、口の中でとろけるパンケーキの甘さにほっぺたが落ちそうだ。


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