お忍びデート
決行の日。朝起きてすぐに体調不良を装い、お城のお抱え医に診てもらった。
当然悪いところは見つからない。まあ風邪でしょうな、と初老の医者は言った。
「近頃乾燥しておりますので。喉を潤わせて、今日一日ゆっくり休まれて、様子を見ましょう」
願ったりの診断だ。朝食と昼食兼用の軽い食事をとり、しばらくベッドで休むと部屋付きの侍女に告げた。
「付き添いは要らないわ。静かに寝たいの。目覚めるまで一人にしておいて」
「かしこまりました」
侍女が去ったあと、静かに部屋を抜け出て空き部屋へ向かった。
間もなくして、使用人の服を着た影武者ちゃんがやって来た。
ウェズリーの別邸からここまで歩いて来るように魔法でインプットしてあった。途中で誰かに見咎められないか心配したが、上手く落ち合えて成功だ。
影武者ちゃんと服を取り替えて、私は使用人のお出かけバージョンに変装した。栗色の長い髪はシンプルにまとめ結い、スカーフを帽子のように頭に巻いた。小さなかごを手に提げる。
私に成り代わった影武者ちゃんが寝室のベッドに横たわるのを見届けて、ウェズリーの待つ庭園へ向かった。
胸がバクバクして、はち切れそうだ。こんな冒険に繰り出すのは生まれて初めてだ。
いつだって決められた道の上を歩いてきた。横道に逸れる勇気もなく、与えられるままに。
不良化した弟をたしなめるでもなく、一緒にお城を抜け出て遊びに行くなんて。なんて悪いことなんだろう。ドキドキして、ワクワクする。
ていうか、ていうか。これって俗に言うデートってやつじゃない!?
年頃の男女が二人きりで、プライベートで遊びに出かけるなんて。デートそのものだ。ウェズリーとデート……!!
約束の木陰に着いた。待っているウェズリーの姿を見て、深呼吸して落ち着かせていた胸が再び高鳴った。
ウェズリーは普段から平民服を着ているが、いつもより小綺麗に整えている。ウェズリーなりの変装なのかもしれないが、私とのデートだから?と都合よく想像してしまう。
「お待たせ。遅くなってごめんなさい」
「全然待ってないよ。俺もさっき来たところ」
このやり取り、ああ本当にデートっぽい。
「影武者ちゃん、大丈夫そうだった?」
「うん、バッチリ」
「良かった。じゃあ早速行こう。門兵とのやり取りは俺に任せて」
ウェズリーが言った。頼もしい。実際慣れた様子で門兵とやり取りをして、あっさりと外へ出ることができた。拍子抜けするほどに。
「すっごく新鮮!」
お見送りも護衛もなく、外へ出た感想だ。外へ出てからのスケジュールも詰まっていない。完全なる自由。とりあえず町へ繰り出す、ということだけ決めていた。
「どこへ行きたい?」
「図書館か古書店?」
「俺に合わせなくていいよ。せっかくジェラルディンと一緒にいるんだから、ジェラルディンが好きなところに行きたい」
肩を並べて、外を歩きながら会話する。これだけでもう心が踊っている。
「うーん、じゃあどこかお店に入ってお茶したい」
「あ。女の子に人気があるスイーツカフェを知ってるよ。行ってみる?」
「うん。でもウェズリーは甘いものは……」
「好きだよ。行ってみたかったけど、男一人じゃ入りにくくて。かわいいテイストのお店なんだ。だから、ジェラルディンが付き合ってくれると嬉しい」
女の子に人気があるスイーツカフェを知っていると聞いて、ひょっとして誰か外の女の子と行ったことがあるんじゃないかと勘繰ってしまった。良かった、そうじゃなくて。
どうして今まで思い至らなかったんだろう。頻繁に町へ出ているらしいウェズリーが、外の世界で人脈を得ている可能性に。
お城を抜け出たあとは、人目を忍んで単独行動をしているものだとばかり思い込んでいた。




