影武者ちゃん
ウェズリー不良化の件は誰にも話さなかった。父や義母に知らせて、ウェズリーが追い出されることになっては嫌だから、見過ごすことにした。
この時点で私も同罪だ。
あれからもウェズリーはしばしば城を抜け出して町の博物館に行ったり、古本屋で掘り出し物の古書を買ったりしているようだ。
私が別邸を訪れる時間帯にはきちっと戻ってきていて、ずっとそこにいたような雰囲気を出している。見慣れない本が増えているので気づくけど。
ある日の昼下がり、ウェズリーが言った。
「準備ができたよ、ジェラルディン。近々仮病が使いやすい日はある? 体調が悪いから寝室で寝てることにして、一緒に出かけよう」
「寝室で寝てることにしても、様子を見に来られたらバレるわ。いないことがバレたら騒ぎになるわ」
「だよね。だから影武者にベッドで寝ててもらおう。影武者を創り出す魔法を習得したんだ」
「え?」
あまりにサラリと言うので聞き違いかと思った。
「ウェズリー、魔法が使えるの?」
確かに最近ウェズリーの買ってくる本は魔術書の類が多いが、単に憧れているからだと思っていた。
魔法を使える者はごくごく一部の限られた者だ。生まれ持った魔力がないと魔法使いにはなれない。素質は遺伝によるため、魔法使いの子どもと決まっている。
「ってことは、ウェズリーの実の親は魔法使いってことよね。条件としてかなり絞られるわね。本当のお父さんお母さんを探せるかも……」
「それはどっちでもいいよ、別に。誰にしろ、俺を人里離れた山に捨てたってことに変わりないから。会いたいと思わないし」
ウェズリーはキッパリと言った。
「話を戻すけど、今からちょっとその影武者を創って見せるね。本番に向けて練習もしたいし」
創造魔法〈中級〉の本を開いたウェズリーは、長ったらしい呪文を唱えながら両手を開き、大きな粘土をこね回すような動きをした。
ウェズリーの手と手の間の空間が薄ぼんやりとぼやけてきて、半透明のクラゲのような物体が見えてきた。
ボヨンボヨンのゲル状の物体が、ウェズリーの手にこねられて人の形になっていく。同時に色彩がくっきりしてきて、本物の人間そっくりの質感に変化する。
目をみはる光景に私は絶句した。
手元と私を交互に見比べて、ウェズリーは嬉しそうに笑った。
「うん、似てきた」
そのあと急に困った顔をした。
「ごめん、首から下は適当で。ベッドに入ったら見えないから、創りこむ必要ないからね」
「うん」
どうやら照れたらしい弟にこちらも照れる。確かに全身を丁寧にそっくりに創られるのは抵抗がある。
というわけで、首から上だけ私によく似た影武者の人形ができ上がった。
ウェズリーの魔力で操ることができるこの人形は、言葉は発せないものの、インプットした動きを遠隔で自動に行うそうだ。
呼吸をしたり、寝返りを打ったり、話しかけられたら首振りで応じたりできるので、
「二、三時間、寝てる病人のふりくらいはできると思う」
「そうね。しばらく一人で寝てるって言っておいたら、起こしに来る人もいないだろうし」
それにしてもすごい、と影武者人形をまじまじと見て思った。こんなものが創れてしまうなんて。
捨て子として拾われ、家族に冷遇されているウェズリーが、実は魔法使いの子どもだったなんて。
これこそ父に報告すべきことなんじゃないだろうか。皆に知らせるべきじゃないのか。知った途端、皆のウェズリーを見る目が変わるだろう。パーティーに出席したときのように。当然良いほうに。
当然良いほうに?
ひょっとして脅威にならないだろうか?
これまで犬のように扱ってきたウェズリーに実は魔力があり、成長してその能力が花開いたのだ。
その力をどう使うかはウェズリー次第だ。私たち家族にやり返したい、見返してやりたいとは思わないのだろうか。
「――どうする?」
「え?」
「決行の日」
心臓がドキドキする。
「じゃあ、明後日。明後日はそれほど大事な予定がないから、仮病を使いやすい日だわ」




