新しい人生の幕開け
翌朝、午前九時半。
サガミタ国王と国王のお母さまをお待たせすることのないよう、早めに歓楽街の魔法陣へ着いた。
私たちの荷物はトランクケース一つだ。ウェズリーが買い揃えてくれた数日分の着替えと、数日の潜伏生活で使った生活小物。
お城の別邸にある、私がウェズリーに買い与えた物を置いていくことにウェズリーは落ち込んだが、
「いつかまた買いましょう」
と慰めた。
「ジェラルディンもお城にお気に入りのドレスや宝石があるだろうに、全部置いて行くんだもんね、俺のせいで。ごめん。もっと計画的に駆け落ちする予定だったのに」
ふるふると首を横に振った。
「ウェズリーと一緒に行ける、それだけで十分よ。ドレスや宝石よりも、ウェズリーがいいの。それに、」
と言って、繋いだ右手を持ち上げて見せた。繋いだウェズリーの左手が持ち上がる。その手首で揺れる、金のブレスレット。
「このブレスレットがあるわ。贈ってくれて本当にありがとう。ウェズリーが好きだと言ってくれたから、コンプレックスだったこの地味な瞳の色も好きになったのよ」
きっとこの瞳を見るたびに、父のことを思い出すだろう。
「やあ、お待たせ」
人気のない場所に張りのある声が響いた。大理石の床に広がる大きな魔法陣の中央に、サガミタ国王と、上品な老婦人が立っていた。
「おはようございます」
ウェズリーと共に姿勢を正した。イチャイチャしている場合ではなかった。
「おはよう。ウェズリー、ジェラルディン。私の母、ショーナ・マーガレット・マクニールだ。ジェラルディン、君のおばあさんの妹だよ」
「ショーナさま。お会いできて、本当に光栄です」
白髪混じりのハニーブロンドに、翡翠色の優しげな瞳。少し小柄なところも祖母によく似ている。初対面なのに懐かしさが込み上げた。
「ジェラルディン、会えて嬉しいわ。さすがフローラの孫娘ね、しっかりしていて良い目をしてるわ。素敵な恋人もいて、最高ね」
ショーナさまがにこりと微笑んで、私に向かって両手を広げた。
「抱きしめさせてちょうだい。そのついでに、魔法陣の承認を行うわね」
「ジェラルディン、さあどうぞ」とサガミタ国王も言い、ショーナさまの前へ進み出た。ショーナさまの両腕に包まれる。
モーリスのときともウェズリーのときとも違う、さざ波のように全身に安らぎが浸透していく。森林の中で沐浴をしているような静かな安らぎだ。
「はい、終わったわ。次はウェズリーね。自分より魔力量の多い魔法使いに、魔力をお裾分けするのも変な気分だけど」
ショーナさまはくすりと笑って、ウェズリーにも魔法陣の承認を行った。
「さあ、では行こう。魔法陣を抜けた先は、母の趣味部屋だ。変な骨董品がたくさんあるが驚かないようにね。ようこそ、サガミタ王国へ。新しい人生の幕開けだ」




