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謝罪

 三日間の潜伏生活を経て、四日目の日曜日。

 デブラおばさんのカフェへ向かった。歓楽街を抜けて商店街へ出ると、人通りが増える。


 誰かに見咎められないか内心ビクビクしていると、ウェズリーが耳元で囁いた。


「大丈夫。ただの通行人を気に留める人って意外と少ないから。ただの通行人のふりをしよう」


 確かにそうかもしれない。数日前に大騒ぎの渦中にいた人物が、まさか普通に近所の商店街を呑気に歩いているとは思わないだろう。


 使用人の服が似合いすぎて笑えるとモニークに評された私だ。今も平民服がしっくりと馴染んでいる。隠しきれない王女の風格というものを持ち合わせていなくて良かった。

 ウェズリーは帽子を被り、堂々と私と手を繋いでいる。そして足取りに迷いがない。



「臨時休業……」


 デブラおばさんのカフェのドアにかかる案内板を目にして愕然としていると、


「多分開いてる」


 と言って、ウェズリーがドアに手をかけた。キイィと軋む音を立てて、ドアは開いた。

 店主のデブラおばさんの姿はない。ガラガラの薄暗い店内に一人、カサブランカさんが中央のテーブルに座っていた。


「やあ、よく来たね。待っていたよ。今日も貸し切りにしてあるよ。これで最後だからと、デブラさんに頼み込んだんだ」


 相応の金額を積んだのだろうなと察した。


「今日は使い魔の子どもは一緒じゃないんだね」


「返還魔法が使えるようになったので、魔界へ還しました」


 ウェズリーが答えた。


「そうか、それは良かった。さあ座って」


 ウェズリーはすっとポケットから取り出した新聞記事をテーブルの上に置いた。例の号外だ。


「すでにご存知かもしれませんが、そこに私たちのことが書いてあります。亡くなったマクスウエル王に、反逆罪の嫌疑をかけられて処罰されかけた養子、というのは私のことです。本当の名はウェズリーと言います。そして、私と駆け落ちをしようとして、共に処されようとした王女が、彼女です。ジェラルディンです。素性を偽り、申し訳ございません」


 一気に説明をしたウェズリーは緊張した面持ちだ。申し訳ございませんと、私も謝罪した。

 サガミタ国王は白ジャケットの内側から、全く同じ新聞記事を取り出して、テーブルの上に置いた。


「何があったかは読んだよ。君たちに何かしらの事情があることは察していた。しかし君たちがこの国で何者であろうと、我が国で新しい生き方を見つけて貰えれば良いと思った。まさかこの国の王女と、その王女と駆け落ち心中をしようとした義弟だとは思わなかったからね。この記事にあるように、反逆罪の嫌疑というのは、冤罪で間違いないのかな?」


「はい。神に誓って、マクスウエル王陛下に対して、反逆行為はございませんでした」


 とキッパリ言い切ったあと、ウェズリーは思い直したように、


「いえ、そうは言い切れません」と言ったので、私がギョッとした。


「血が繋がらないと言え、ジェラルディンを愛してしまいました。私が王家に引き取られて以降、ずっと面倒をみてくれたジェラルディンですが、私は一度も彼女を姉だと思ったことはありません。反逆行為と言われれば、そうでしょう」


「ウェズリー……」


「君は捨て子だそうだね。王族とは全く血が繋がっていないと」


「はい」


「実のご両親の記憶は?」


「全くありません。山で保護されたとき、記憶喪失のような状態でしたので。身内だと名乗り出る者も現れないままです」


「そうか……この国に未練はないか? ジェラルディンと共に我が国へ渡り、私の下で魔法の研究に打ち込む気はまだあるかい? 君の素晴らしい才能を生かし、世の中を便利に楽しくする魔法を生み出すために、尽力する気は」


 暗くなりゆく空に、ぱっと一筋の明るい光が差したような問いかけだった。


「はい、あります」


 ウェズリーが力強く答えた。


「陛下のお役に立ちます、必ず」


「では出発は早いほうがいいだろう。明日、午前十時に、歓楽街の魔法陣で待ち合わせよう」



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