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一夜明けて

 

 美味しそうな匂いに釣られて、目が覚めた。

 ハムが焦げるような香ばしい匂い。むくりとベッドから身を起こした。


「あ、おはようジェラルディン。ちょうど良かった、いまご飯ができたところ」


 部屋にあるニ人掛けの小さなテーブルに、目玉焼きベーコンが乗ったお皿を置きながら、ウェズリーが言った。

 テーブルの上には、他にもパンとサラダとスープとジュースが乗っている。


「え、これ全部ウェズリーが作ったの?」


「作ったってほどのもんじゃないけど。昨日は何も食べずに寝ちゃったから、とりあえず朝ご飯はしっかりめに、と思って」


「お宿のお部屋って、キッチンまでついているものなのねえ」


 感心する私にウェズリーが言った。


「ここは元々貸しアパートだったらしいから、多分特別なんだと思う。ボロアパートで人が住まなくなったから、大家さんが改築して、貸し宿にしたそうだよ。だから、普通の宿だと食事を出してもらえたりするそうだけど、ここは自分たちで用意してねっていうスタイルみたい。お掃除の人も来ないし、潜伏先としては最適だよね」


 なるほど、とますます感心した。色々考えて、この宿を選んだのだと分かった。


「さあ座って。出来たてのほうが美味しいだろうから、とりあえず食べよう。味に自信はないけど」


「すごく美味しそう。いただきます」


 ウェズリーが引いてくれた椅子に腰を下ろした。


「そういえば、ローザは?」


 キョロっと部屋を見渡した。


「還した。ジェラルディンが目を覚ましてからのほうがいいかなとは思ったんだけど……」


「あ、私が寝すぎたからね」


「ううん、もっとゆっくり寝てても良かったくらいだよ。ローザがいるとゴソゴソして、俺が慌ただしいから。ローザが活動してる限り、魔力も消費するし、完全に俺の都合。ごめんね、お別れの言葉もなく還して。会いたかったら言って、また召喚する」


「ううん、大丈夫」


 ありがとうと伝えそびれたことが悔やまれるが、無事にローザを還せたのは良いことだ。苦戦していた返還魔法に遂に成功したのだ。


「ウェズリーは本当にすごいわね。どんどん色んな魔法が使えるようになって、お料理まで作れて。私も、できるようにならなくちゃ。お昼は私が作るわ」


「え、ジェラルディンが!?」


「ええ、そうよ。お抱えの料理人も給仕メイドもいないんだもの。私がするわ」


「できるの?」  


「いきなり最初からはできないわ。でもチャレンジしないと一生できないもの。チャレンジして、少しずつ覚えるわ」


 私の潔い返答に、ウェズリーは安心したような顔をした。


「うん、そうだね。俺もそう。一緒にチャレンジしよう。お昼ご飯作り」


 ジャガイモに硬さが残るスープを飲みながら、これからの日常を思い描いた。

 ウェズリーと一緒に料理をして、食器を選んで、同じ寝具にくるまって眠るような日々を。


 ふと静かになったウェズリーを見上げると、オレンジジュースを飲み終えて、唇をふるふると震わせていた。

 え!? 泣っ、


「どうしたの? なんで泣いて……」


「泣いてないよ。泣いてないけど、ジェラルディンを抱きしめて寝て、一緒に笑いながら朝ご飯を食べてって、こんな日が来るなんて、夢みたいで。嬉しくて感動して……ちょっと泣きそうになっただけ」


 ウェズリーの愛情表現はいつでも真っ直ぐだ。直球で投げ込まれて、取り繕う暇もない。私もつられて感涙しそうになった。

 けどちょっと待って、いま聞き捨てならない言葉があったような……


『抱きしめて寝て』?


 そうだ、昨日は魔力切れの反動で気を失うようにして眠ってしまったんだ。

 確かに、ウェズリーに受け止められて寝た。寝入ってからはベッドに置いてくれたものだと思っていた。


「抱きしめて寝たって、まさか一晩中……?」


「うん。ドキドキして一睡もできなかった」


 うわわわっ、恥ずかしくて死にそう。記憶がなくて良かったような、残念なような。


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