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決心

 存分に魔力を吸収したのか、ローザはこてんと寝落ちた。しかし眠りながらもまだ唇がむにむにと動いている。夢の中でも吸っているのだろうか。


「ローザは吸い方が下手くそなんだ。普通は、軽く口をつけるだけで吸い込めるのに。まだ小さいからかな。もっと大きくなったら違うかも」


 着衣の乱れを正して、ウェズリーが言った。もっと大きくなったら、か。

 ローザが妖艶な女性に成長した姿を想像した。そのローザが、ウェズリーの脇腹をチュッチュッと吸う……ダメダメ、それはいやらしすぎる!


 でもローザが女性の姿になるとは限らないのか。召喚魔には性別がないと言っていた。今は少女のように見えるが、大きくなったらもっと中性的な見た目になるのかもしれない。


 というか、「ローザが大きくなったら」の仮定で考えてしまっているけど、そもそも……


「ローザを還らせる魔法って、使えないままなの?」


 ウェズリーに尋ねた。


「いや、もう邪魔者の呪いが解けたから、返還魔法が使える。目を覚ましたら還すよ」


「そうなの? じゃあ、ローザを仮死状態にしてサガミタ国へ送る必要もなくなったわね。『行く当てがある』っていうのは、サガミタ王国のことでしょう?」


「うん、そう。カサブランカさんとの約束はまだ生きてる。次の日曜日に、デブラおばさんのカフェで会って、ローザの件は解決したと伝える。そして次はカサブランカさんのお母さんに会わせてもらって、魔法陣の承認をしてもらう。それで無事、サガミタ国へ行くことができる」


「サガミタ国王は、今回の件をご存知かしら? 知ったら、受け入れてもらえるかどうか……」


「カサブランカさんは魔法陣を使って、用事がある時にだけ来て、用事が済めばトンボ返りしてるはずだから、この前会った日曜日以来、こっちには来ていないと思う。サガミタは遠い国だし国交もないから、多分耳に入ってない」


 そうねと頷くも、心は晴れない。今はまだ知られていなくても、日曜日に来たときに町の人から聞き知る可能性はある。

 それに、もし素性を隠したまま上手くサガミタ国へ亡命できたとしても、その先はずっと嘘を突き通す人生が待っている。


「後で国際問題に発展したりしないかしら。何も知らずに厄介者を受け入れて、サガミタに迷惑をかけるかもしれない」


「じゃあ本当のことを話そう」


 ウェズリーがあっさりと言った。


「カサブランカさんなら、本当のことを知った上で、受け入れてくれるかもしれない。せっかくジェラルディンと新しいスタートを切るのに、嘘をついて後ろめたい気持ちでいなくちゃいけないのも嫌だし。ジェラルディンのことは、ちゃんとジェラルディンって呼びたい」


 真っ直ぐなウェズリーの言葉に、そうねと頷いた。私もウェズリーをウェズリーと呼びたい。偽名のウェンツじゃなくて。


 約束の日曜日は四日後だ。それまでにローザを魔界へ返還して、二人でサガミタ国王に会って、本当のことを話そう。ウェズリーとそう決めた。


「それで、サガミタ国王に受け入れてもらえなかったらどうする?」


 ウェズリーに尋ねた。


「そのときは、頭を下げてモーリス卿に頼るよ。癪だけど」


 嫌そうに答える。


「ウェズリーって、どうしてモーリスのことをそう嫌っているの? 直接何かをされたってわけじゃないわよね?」


「どうしてって、恋敵だからに決まってるでしょ。爽やかで格好良くて、いけ好かない。ジェラルディンと深夜デートしたり、実家に泊まらせたり、婚約を申し込んだりして、すごく嫌だ」


 拗ねるように言うウェズリーは、時々すごく子どもっぽい。ぐんと大人びたかと思えば、そうでもない。

 

「それは全部、恋心からの行動じゃないわ。モーリスは私たちのことを応援してくれているし。第一、あのときモーリスが毒薬の瓶を割ってくれたから、いま生きている。感謝しなきゃ」


 諭すように言うと、ウェズリーはぶすりとした。


「あれは毒薬じゃないよ。俺が調合した、強力な睡眠薬。口に含んで、ジェラルディンにだけ飲ませるつもりだった。ジェラルディンが眠っている間に、俺一人で全部片を付けようと思ったんだ」


 思いがけない告白に驚いた。小瓶の中身は毒薬だとばかり思っていた。


『ジェラルディン、俺と一緒に死んでくれる?』


 あのときのウェズリーは本当に切羽詰まっていて、今にも死にそうだったから。一緒に連れて行ってほしいと願ったんだ。


「でもまあ、良かったよ。モーリス卿のお陰で、そうしなくて済んだから。感謝しないと、だね」


 仄暗い笑みを浮かべるウェズリーに、不穏なものを感じ取ってドキリとした。

 一人で片を付けるとは、どうするつもりだったんだろう。駄目だ、思考がぼやけてきた。


「ウェズリー……なんだか、急に眠気が……」


 この感覚には覚えがある。お裾分けしてもらった魔力が切れて、反動がきたのだ。


「うん。おいで、ジェラルディン。寝かしてあげる」


 ウェズリーが両手を広げた。倒れ込むようにして、その腕のなかに身を委ねた。固くて温かい感触に包まれる。いい匂い。

 耳心地の良い心音を子守唄にして、ゆっくりと意識を手離した。


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