反抗期!?
パーティーからしばらく経ったある日、ウェズリーが見覚えのない本を持っているのを見た。
召喚魔法〈中級〉の本だ。私が差し入れた本ではない。
「これ、どうしたの?」
「あ。えっと、古本屋で買った」
「えっ!?」
想像だにしない返事だった。
「買ったって、ウェズリーが? 外に出て?」
うんと弟は肯定した。
「えっ、王城の外に出たの? お金は誰かに貰って?」
つい質問責めになる。だってウェズリーは勝手に外に出られる立場にない。もちろんこの別邸に鍵は掛かっていないので、外へ出て王城の敷地内を自由に歩くことはできる。
敷地は広大で美しく整備された庭園になっているので、散歩には事欠かない。
敷地のさらに外に出るには見張り番所を通らないといけないし、そもそも家族の許可がいる。私だってあるゆる許可をもらってようやく外出できるのだ。
「たまに抜け出てるんだ。ほら俺、見張りの人たちにまでは認識されてないし。門番って侵入者には厳しいけど、出て行く人はそこまで怪しまれないから、小間使いのふりして。今はもう小間使いとして顔を覚えられてる」
驚きのあまり声が出ない。
「お金は貰った。ていうか稼いだ、かな」
驚きの連続でノックアウトされそうだったが、姉として聞き捨てならない。
「稼いだって、何をして?」
「秘密。ジェラルディンに心配かけたくないから」
「すでに心配してるわ。ウェズリー、正直に話して。怒らないから」
「正直に話してるよ。ジェラルディンに嘘はつかない。だから秘密」
まさかの反抗期だ。可愛くて素直で私に懐いていた弟が。
いつから王城を抜け出して遊ぶようになったのだろう。しかも言えないような事をしてお金を稼いでいるなんて。まるで不良だ。いつから?
急にこうなったの?
「ウェズリー。このことをお父さま、お義母さまに報告するわよ? そうしたらこの別邸に鍵を掛けられて、出られなくなるわよ。見張りも強化されるわ」
現実的ではないと思いながらも脅し文句を口にする。ウェズリーに無関心な父と嫌っている義母がそこまでするだろうか。
ウェズリーが外で働いて生きていけると知れば、逆に自立を促しそうだ。この狭苦しい場所に弟を囲って置きたいのは私だ。
「それは困るな……ここに戻って来られなくなる」
ウェズリーが弱々しく言った。それを聞いた私は咄嗟に「いやっ」と叫んだ。
「嫌よ、ウェズリー。出て行かないで。出て行くときは私も連れて行って」
弟は目を丸くした。
「いいけど、俺と違ってジェラルディンには予定がいっぱいだから、誰にも気づかれずにこっそり抜け出すって難しいんじゃないかな。俺はほら、何時間出てても誰も気にしないし。あ、ジェラルディンだけは気にしてくれるよね。だから、ジェラルディンの来る時間帯には必ず帰るようにしてるんだ」
そういう意味じゃない。私は、私を連れて逃げて的なニュアンスで口走ってしまったけど、ウェズリーは、遊びに連れて行ってと受け取ったようだ。軽いほうに受け取られてセーフだ。
「一緒に出られる方法、模索しとくね」
軽やかに約束するウェズリーはやっぱり成長してしまった。
昨日までは一人称「僕」だったのに「俺」になっているし、驚きだらけだ。反抗期がきて不良になってしまった。だからといって好きだという気持ちは変わらない。
子どもから大人になっていく過程のウェズリーもやっぱり愛しいのだ。




