ウェズリー流の承認
小さな縦長の小屋が、十棟ほど建ち並んでいる場所に着いた。
「ここは?」
「貸し倉庫だよ。一つ借りたんだ」
ローザをカラスに戻して空に放ったウェズリーは、どこからか取り出した鍵で、倉庫の一つを開けた。
倉庫の中に入った。窮屈だが、物は何も無い。その代わり、青白く発光する派手なものがあった。
「魔法陣!」
「うん。大聖堂前広場から程よい距離で、目立たずに安全に隠しておける場所、ここかなと思って。雨風も凌げるし」
倉庫内の壁に描かれた魔法陣をチェックするように眺めながら、ウェズリーが言った。
「歓楽街の中にも宿を借りてる。その宿の部屋に描いた魔法陣と、この魔法陣を繋げてる」
ウェズリーの機転の良さに舌を巻いた。この魔法陣を使って、瞬時に歓楽街の宿まで移動できるというわけだ。
個人が描いた魔法陣は、描いた本人しか通れないため、誰かに追って来られる心配もない。追っ手がいる場合を想定して、準備していたのだろう。
「魔法陣は描いた魔法使いしか通れないけど、その人に承認してもらえば、通れるようになるのよね」
モーリスから得た知識を披露した。
「うん、そう。さすがジェラルディン、よく知ってるね。承認するから、手を出して」
握手を求めるように片手を差し出してきたウェズリーに、キョトンとした。
「え?」
「ん?」
「魔力のお裾分けって、両手を握っておでこをくっつける、でしょう?」
「誰がそんな………もしかして、モーリス卿?」
「ええ。人それぞれ、方法が異なるのね」
「違う、絶対それ下心。ジェラルディンにそうしたかっただけだよ。両手を握っておでこをくっつける? は? オジサン相手でもそうしてるなら認めるけど」
変なところで怒りだしたウェズリーに驚いた。
「ウェズリーは握手するだけなの? ウェズリーだから、それで済むんじゃない? モーリスは魔法陣を描くのも十八時間かかったって言ってたし、魔法使いにも得手不得手の分野があるって言ってたわ。モーリスは魔法陣関係が苦手なのかも」
ついモーリスを擁護した。色々助けてもらった相手に、つまらないことで目くじらを立ててほしくない。
「庇うんだ?」
ピリッとした空気が漂った。
生死の窮地を共に乗り切って、生涯の愛を誓いあったというのに、こんな小さなことで喧嘩なんて。
「ごめん、ジェラルディン」
ウェズリーが言った。
「ヤキモチやいて、突っかかってごめん。独占欲強いよね、俺。怖く思わないで。ジェラルディンのことになると、凶悪になる俺がいて。怖いよね、こういうの」
しゅんとするウェズリーの頬に手を添わせた。
「大好きよ、ウェズリー。もしウェズリーが魔王の生まれ変わりだとしても、ちっとも怖くない。いま目の前にいるウェズリーを、ずっと見てきたから」
「ありがとう、ジェラルディン……俺のやり方で、魔力のお裾分けするから、受け取って」
そう言った唇が、はむりと私の唇をはんだ。浅く開いた唇の隙間からぬるりと滑り込んできた生温かい感触に、魂から満たされていくのを感じた。




