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乗馬

 喧騒に紛れて、広場の外へ出た。人が少ない場所まで来ると、ウェズリーは足を止めて空へ片手を伸ばした。

 空の彼方から黒い影が飛んで来るのが見える。大きなカラスだ。


 バサバサッと大きな羽音を立てながら、カラスはウェズリーの腕に止まった。ローズ色の瞳をしている。


「ローザね。変身できるようになったの?」


「うん。見てて」

 

 ウェズリーが呪文を唱えてカラスを放った。みるみるうちに姿を変えて、一頭の馬になった。漆黒のベルベットのような毛並みの馬だ。


「ローザに乗せてもらおう」


 ウェズリーはそう言って、続けてお得意の創作魔法を使って、乗馬用の馬具を創り出した。

 半透明の鞍や鐙をローザが変身した馬に装着した。


「ジェラルディンは乗馬できる?」


「もちろん。王女教育で教え込まれたもの。でもローザに乗るのって、少し気が引けるわ」


 今は馬の姿をしていても、脳裏に焼きついているのはあの可愛い赤ちゃんの姿だ。


「大丈夫。優しく乗って、ゆっくり歩かせる。無理はさせない。前に乗って、ジェラルディン」


 ウェズリーに支えられ、半透明の踏み台に乗ってから慎重に鞍に乗った。鞍や鐙がちゃんと二人分あることに感心した。臨機応変な創作魔法はとても便利だ。急いで創ったからか、形は少し歪だけど。


「よしよし、いい子だね。後でたっぷり美味しい魔力を吸わせてあげるからね」


 ローザの頬を撫でてから、ウェズリーは私の後ろに跨がった。私の身体を支えるようにして手綱を握った。

 ローザがゆっくりと歩き出した。パカラ、パカラという蹄の音と、一定のリズムの振動に身を委ねていると、急速に実感が湧き上がった。


 私たちは生き残ったのだ。ウェズリーと二人で。こうして一緒にいる。

 もう王女ではなく、ウェズリーと姉弟という縛りもない。全人類に祝福されることはなくても、モーリスは私たちの幸せを祈ってくれた。


「ウェズリー、ありがとう」


 たくさん伝えたいことはあるが、一番に伝えたい言葉だった。

 助けに来てくれてありがとう。最後まで父の挑発に乗らずに、戦ってくれてありがとう。

 好きになってくれてありがとう。ウェズリーがいてくれて、生きていてくれて、本当に良かった。


「俺こそ、ありがとう」


 ウェズリーはそう言って手綱を離すと、私を後ろから抱きしめた。空気を読んだのか、ローザがピタリと足を止める。

 ウェズリーに抱きしめられたままの体勢で、首を後ろに振り向けた。ウェズリーは抱擁の手を緩め、私を抱き直した。愛しさが溢れてくる。

 見つめ合ったまま首を傾げて、唇に唇を重ねた。ふんわりとした柔らかさに脳が痺れる。蕩けてぐずぐずになってしまいそうだ。

 

「愛してる」


 とウェズリーが言った。


「私こそ、愛してるわ。今までも、これからもずっと」



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