覚悟
前へ出て、一つ深呼吸した。真実を述べることを神に宣誓する。
「私は、ウェズリーを愛しています。ウェズリーは黒魔法使いではありません。私を優しく穏やかな気持ちにさせ、勇気をくれる魔法を使う、良い魔法使いです。誰が何と言おうと、私はウェズリーを愛しています。人は皆いつか死ぬ。だったらウェズリーを愛している私のままで死ぬわ」
聖堂内に大きなどよめきが上がった。まあっ、なんということだ、撤回を、と口々に貴族たちが声を上げる。
「いいだろう」
父が怒鳴るように言った。
「強力な洗脳でどうやっても解けないようだ。本人の希望通り、死刑に処する。ジェラルディンをこの場で廃嫡し、斬首刑を言い渡す!」
「国王陛下! それはあんまりです、どうか冷静なご判断を!」
父に詰め詰め寄ろうとしたモーリスが近衛兵に羽交い締めにされた。
聖堂内がざわつくなか、父は私の手をぐいと取ると出口へ向かった。近衛兵が付いてくる。さらに大勢の者が後に続いて来る。
両開きの重厚な扉が開かれた。外からの光が眩しくて目を細めた。
大聖堂の出入り口から真っ直ぐ伸びたタイル敷の道の先が、民衆が集う大広場になっている。普段は憩いの場であり、祭典時には催しで賑わう広場だ。
今日は厳重な警備が配備されている。民衆が勝手に中央に近づけないように、ぐるりと警備の輪に阻まれている。
そのぽっかりと空いた中央のスペースに、ハワース魔法騎士長がいた。魔法騎士長の前では二人の騎士が、抜いた剣をバツ印に交差させて、魔法騎士長と黒髪の男との間に立っている。
その黒髪の男がウェズリーだと気づき、心臓が止まるかと思った。
「ウェズリーーー! 逃げてーー!」
風がはためいて、途切れそうになる声を必死で届けた。
近くの近衛兵に私を乱暴に押し付けると、父は真っ直ぐそちらへ向かって行った。
ハワース魔法騎士長の隣に並んだ父は、魔法騎士長と言葉を交わし、魔法騎士長は後ろに下がった。剣を構えていた騎士は剣を下ろし、脇へ退いた。
父とウェズリーが対面した。
「国王陛下。お呼び出しどおりに参りました。王女さまをお離しください」
三日見ない間にまた大人っぽくなった。堂々と父を見据えて、ウェズリーが言った。
父の近衛兵にがっちりと両腕を取られている私は身動きができない。
「もう王女ではない。反逆者と共謀した罪により廃嫡した。死刑が確定し、これから執行する。止めたければ、かかってこい。お前は魔王レイフ・クィンランの生まれ変わりだ。力で奪うが良い」
大声でそう言い放った父は、腰に下げた英雄の剣をおもむろに抜いた。
鋭く光る剣先をウェズリーに向けた。
警備の壁の向こう側の平民たちが騒ぎ出した。
「魔王レイフ・クィンランの生まれ変わりだって!?」
「ここにいて大丈夫か!?」
「大丈夫、エリオットさまが勝つに決まってら」
「英雄エリオットさまー!」
巻き起こった英雄コールが鳴り止むのを待って、父は満足そうな声で言った。
「どうした、恐れを成したか。早くかかってこい。私が憎いだろう」
ウェズリーはその場で両膝を着いて、父を見上げた。
「国王陛下には感謝しかありません。どこの馬の骨とも分からない私を拾い、七年間育てていただきました。恩知らずの私が、陛下の手にかかって死ねるなら本望です。ただ一つだけ、お願い申し上げます。この命と引き換えに、ジェラルディンをお助けください。ジェラルディンが幸せに暮らせるように、陛下のお力添えを」
涙がはらはらと頬を伝った。人前で泣いてはいけないと厳しく躾けられたが、私はもう王女ではない。どれだけ泣いても自由だ。
「ウェズリー、私も一緒に逝くわ。ウェズリーがいない世界で、私が幸せになれると思うの? 全人類を敵に回しても、地獄にだって一緒に行くわ、ウェズリーとなら」
父の肩越しにウェズリーと目が合った。見つめ合う私たちに、父の怒りが爆発した。
「ふざけるなっ、胸糞悪い猿芝居はやめろっ」
片足を振り上げて、ウェズリーをどかっと蹴り飛ばした。




