死刑宣告
王城に入ると兄は無口になり、それ以上のことは教えてくれなかった。
自室ではなく、空き部屋に入れられた。狭いが最小限の設備が付いた、宿泊客用の部屋だ。ドアの外には見張りが立っている。
とりあえず、あの暗くて寒くて陰湿な地下牢から移動できたことに、兄に感謝した。ここで少し心を落ち着かせて、考えを整理しよう。
今日一日で色んなことがありすぎて、夢を見ているようだ。朝はあんなにワクワクしていたのに。デブラおばさんのカフェを探し当てて、カサブランカさんに会って、今後の話をして。
それからアクセサリーショップに寄って、ウェズリーとお揃いのブレスレットを買って……。
ウェズリーが着けてくれた左手首のブレスレットに、そっと右手で触れた。雫型の小さなチャームが手のひらに当たる。ウェズリーの瞳の色のアメジスト。
離れていても一緒にいると思えるようにと、ペアの物を贈ってくれた。このブレスレットに触れていると、心が透き通る。雑念が消えて、信念だけが残る。
私と一緒なら、地獄にでも喜んで落ちるとウェズリーは言ってくれた。全人類を敵に回したって平気だと。私も、同じ気持ちだ。
ガチャっと荒い音を立てて、部屋のドアが開いた。
「今晩は、お姉さま。食べ損ねたようだから、お夜食を持ってきてあげたのよ」
食事のトレイを持ったモニークが顔を見せた。見張り兵に扉を開け閉めさせて、モニークは部屋の中に入ってきた。
テーブルの上にトレイを置き、私を見てぷはっと笑った。
「いやだお姉さまったら、使用人の服がよく似合うのね。馴染みすぎて笑える」
お忍び用の変装をしたままだと、言われて気づいた。服装を気に留める余裕はなかった。
「お姉さまって、たくさんお勉強してるわりに頭が悪いのね。あんな駄犬にたぶらかされて、利用されて、バっカじゃないの? ちょっとばかり顔が綺麗だか知らないけど、モーリスさまのほうがいいに決まってるじゃない」
今までは一応我慢していたのだろう。攻撃的な言動はこれまでもあったが、まだ言葉を選んでいた。ここまで歯に衣着せぬ物言いは初めてだ。
「モーリスさまを裏切った罪は大きいわよ。私とお母さまのことをいつも馬鹿にしてた罪もね。あと三日の命ね、お姉さま。王女が斬首刑だなんて、よほどの大罪人ってことね」
罵詈雑言は聞き流すつもりだったが、とんでもない言葉が飛び出したのでさすがに驚いた。
あと三日の命……斬首刑?
「あらお姉さま、そんなに驚いた顔をして、ご存知なかったの? お姉さまは三日後に、大聖堂前広場で公開処刑されるのよ。今あちこちに知らせを飛ばしているから、大勢の見物人が来るでしょうね。私とお母さまは、大聖堂のバルコニーから優雅に見物する予定よ。ではまたそのときに」
意地悪な笑みを浮かべ、モニークは部屋を出て行った。
呆然とした。何らかの刑に処されることは覚悟していたが、もう少し猶予があると思っていた。こちらの話を一度も聞くことなく、すでに極刑が確定したというのか。死刑。
私がいなくても父は哀しまないだろうとは思っていたが、父に死刑の決定を下されるとは思っていなかった。
心が通い合っていなくとも、血の繋がった父娘であることは揺るぎないのだからと、どこかで信じていたのだ。それも甘い考えだったようだ。
最後にもう一度ウェズリーに会いたい。笑顔を見たい。優しい声が聞きたい。話せなくてもいい。目を見つめれば想いは通じる。
でも駄目だ。ウェズリーは来てはいけない。父たちは私を囮にして、ウェズリーを呼び出すつもりだ。そしてウェズリーを『第二の魔王』に仕立てあげるつもりなのだから。




