地下牢にて
地下牢は城内で問題を起こした者を一時的に拘留するための場所だ。
初めて足を踏み入れたそこは、暗くて寒く殺風景で、陰湿な空気が充満していた。
ローザと共に、鉄格子の中に押し込まれた。格子の外には、剣を持った見張り兵二名が立っている。
「お願い、父と話をさせて。少しでいいの、お願い。みんな誤解しているの。誰か話の分かる人を」
いくら訴えても、私の声など聞こえていない様子だ。少しの反応もない。表情を崩さず、無言で前を向いている。
鉄格子の中を見張っているというより、外からの侵入者を警戒しているようだ。
ローザは、見えない魔法で両手を縛られている。ハワース魔法騎士長の操る、あの布蛇だろう。両手首がくっついた状態から動かせず、広げた足を前に投げ出して座っている。
そしてじっと出入り口を睨んでいる。頭に大きなたんこぶができているのは、父に噛みついたときに肘鉄を食らったようだ。
小さなローザが勇敢に戦って、気絶するほどの痛みを食らっても泣きもせず、不屈の精神で反逆の機会をうかがっている。その姿に勇気づけられる。
「ローザ、おいで」
両手を広げてローザに呼びかけた。ローザはウェズリーにしか懐いていない。私の存在を認識はしているが、関わり合いたいとは思わないらしく、寄って来たことがない。
でも今はそのウェズリーがいない。さすがのローザも心細いだろう。ずっと一緒だったウェズリーと離れ、暗くて寒い地下牢の中だ。ウェズリーの代わりにはなれないが、せめて温めてあげたい。
ローザは私のほうへ顔を向けたが、またすぐに出入り口の方を見た。誰かやって来た。
「おやめください、王女殿下。魔物を可愛がるなど、おぞましい」
「ハワース魔法騎士長! 私の話を聞いてください。この魔物の子どもは危険なものではありません。ウェズリーに危険思想はありません、誤解なんです!」
「そう捲し立てんでください、王女殿下。お決めになるのは全て国王陛下ですので。王女殿下に免じて、この魔物は逃がして差し上げましょう」
魔法騎士長はそう言って、ローザのほうを見た。
「なあお前さん、使い魔らしく、お使いをさせてやろう。ここから逃がしてやる代わりに、お前の主人に一つ伝言を頼むぞ。お使いのご褒美に魔力を貰えるぞ」
魔法騎士長は見張り兵に合図をして、格子扉を開けさせると、ローザの拘束した両手を掴んで、引きずり出した。
「よしよし、いい子だ」
魔法騎士長がローザを連れて出て行くと、残った見張り兵は黙って元通りの位置へ着いた。
いま何時なのか、いつまでここにいればいいのか、誰がそれを教えてくれるのか、何も分からない。
ウェズリーは無事に逃げおおせたようだ。
しかし私を囮にして呼び戻すと言っていた。ローザを利用してウェズリーを呼ぶつもりだ。
どうか来ないで、ウェズリー。
父と魔法騎士長は、なぜかまるで聞く耳を持たない。反勢力と結託だの、国家転覆を狙っているだのと、荒唐無稽なことを口にする。
私とウェズリーは、駆け落ちしようとはしていた。姉弟で禁断の恋をして、婚約話を踏みにじって、遠くの国へ逃げようとしていた。それが悪いことで、恩知らずなことだと分かっている。駆け落ちが見つかれば罰せられることも覚悟していた。
でもこれは違う。これではウェズリーだけがすごく悪者だ。
私は黒魔術で洗脳されたわけじゃない。私たちは愛し合っている。さらって逃げてほしいと言ったのも私だし、先に好きだと告白したのも私だ。
ウェズリーが魔法を使えることを知っていて隠した。本を買い与えていたのも私。変な風に誤解される前に、ちゃんと報告していれば良かったのかもしれない。
だってウェズリーは、あの素晴らしい魔法の才能を、家族への復讐に使う気など微塵もないのだから。
ウェズリーを見下してひどい扱いをしていた私たち家族に、復讐したくはないのか、見返してやりたい気持ちはないのかと前に尋ねたとき、ウェズリーはキッパリと否定した。
『復讐? 何でそういう思考になるの。見返してやるとか復讐とか、思うわけないでしょ。俺はすごく感謝してるよ。捨てられてた小汚い俺を拾って、安全に寝られる場所と、食べるものと着るものを与えてくれて』
あれは絶対に本音だったと信じている。
あれほど謙虚で素直で優しいウェズリーが、極悪な犯罪者のように言われては、黙っていられない。




