警戒心
「お礼を言われるようなこと、言ったかな」
「言った。ウェズリーがいてくれて良かった、ありがとう」
「こちらこそ、ありがとう。この世界にジェラルディンがいてくれて。俺と出会ってくれて」
微笑み合う幸せの片隅でチラリと思う。ウェズリーに出会えたのは、紛れもなく父のお陰だ。人里離れた山に捨て置かれていたウェズリーの、本当の両親は今どこでどうしているのだろう。
「カサブランカさんのお母さんに会えるのも楽しみだね。あ、魔法陣で思い出したんだけど」
とウェズリーが言った。
「ローザとくっついてお昼寝してると、魔法陣が夢に出てくるんだ。毎回同じ夢、見たことがない模様の魔法陣で。途中まで俺が描いてるんだけど、残り四分の一くらいが空白で、そこから先が描けないっていう夢」
「へぇ、さすが魔法使いらしい夢ね。何かを暗示しているのかしら? 魔法陣といえば、ウェズリーは歓楽街の魔法陣と、どこの魔法陣を繋いでいたの? ストリートファイトの試合に通ってたとき。モーリスが不思議がっていたわ」
王城の敷地内には魔法陣設置防止の結界が張ってあるので、どこか別の場所だろうとモーリスは推測していた。
「普通に家だけど。歓楽街に出入りしてることはジェラルディンに内緒にしてたから、行くときに描いて帰ってきて消して、ってしてた」
「えっ、毎回!? 魔法陣描くのって、時間がかかって大変よね?」
モーリスは十八時間、熟練の魔法陣描き師でも四、五時間だと言っていたはず。
「うん、四十分くらいかかるかな。段々感覚で描けるようになって、早くはなったんだけど」
「四十分?」
聞き間違いかと思った。
「うん。でも今はもう歓楽街には全然行ってないよ、ジェラルディンと約束したから」
ウェズリーが慌てて弁解した。それは別に怪しんでいない。私が驚いたのは、ウェズリーの桁外れの能力にだ。想像を遥かに上回っている。
それともう一つ驚いたのは、王城の敷地内に魔法陣は設置できないんじゃなかったの?ということだ。
ウェズリーの住む別邸は、王城の敷地内と認識されていないんだろうか?
放ったらかしのウェズリー同様、ウェズリーの住む別邸はみんなの頭の片隅にも入っていないのだろうか。
ちょっと無警戒すぎやしない?
いくらウェズリーを軽視しているからといって、気にしていなさ過ぎる。「無能で不要なもの」とレッテルを貼ったきり、そちらに目を向けて見ようともしないのか。
まあ、そのお陰でこうして抜け出すことができているんだけど。ウェズリーの創った影武者ちゃんが良い働きをしてくれている。
そう信じていた。




