母から貰ったもの
公園から少し歩いて、馬車乗り場に着いた。この城下町とお城との間を往復する馬車は一日に何便もあるので便利だ。
ローザは馬車が好きらしく、馬車を見ると興奮する。手足をジタバタさせて、その場でピョンピョン飛び跳ねるので、喜びの表現が分かりやすい。
馬車に乗っている間も立ち上がろうとするので、ウェズリーが素早く叱る。叱るだけでなく、「いい子に大人しくしていられたら、後で特上の魔力を吸わせてあげるからね」と耳打ちすることも忘れない。
「ねえ、ウェズリー。ローザのことだけど」
乗り合い馬車には他の同乗者もいるため、ヒソヒソ声で話す。
「仮死状態にして船便で送るって、大丈夫なのかしら」
「仮死状態だと寂しさや不安を感じないし、お腹も空かないからね。一緒に何ヶ月も船旅をするよりは、お互いに楽だと思うよ」
「そっか、それもそうね」
「それに、返還魔法を邪魔してるやつのテリトリーから逃れることができたら、ローザを返すことができると思うんだ」
「本当? それじゃあ、とりあえず向こうへ着いてからの話ね」
「うん。そういえばカサブランカさんが言ってた、カサブランカさんのお母さんの話だけど。お姉さんがこの国に嫁いで、王族と繋がりがあったって。てことは、もしかしてジェラルディンと血が繋がってる?」
「そうなの実は。私の亡くなったお母さんのお母さんの妹さんが、カサブランカさんのお母さんらしいの」
サガミタ国王の名を公然と出してはいけないと思ったのか、ウェズリーがカサブランカさんと呼ぶので、私もそれにならった。
「魔法陣が描けるってことは魔法使いだよね。カサブランカさんも魔力持ちで、ローザを一目見て分かったようだし」
「そうね」
「てことは、ジェラルディンのおばあさんも魔法使い?」
「えっ。聞いたことがないわ。おばあさんは、お母さんより早くに亡くなったし……」
「ジェラルディンのお母さんはどうだったの?」
「お母さんは魔法使いじゃなかったわ。おじいちゃんが魔法使いじゃなかったから。もし、おばあちゃんが魔法使いだったとしても、お母さんには遺伝しなかった、てことだと思う」
魔法使いは、その血を受け継いだかどうかの遺伝で決まる。両親とも魔法使いなら確実に魔法使いの子どもが生まれるが、どちらか片方だけなら、普通の子どもが生まれる可能性が高いと言われている。
「そっか。でもこれで腑に落ちたよ。ジェラルディンからは微かに魔力の匂いがするから。魔法使いの血筋なんだね。魔法使いの血は、薄まりはしても、完全に消失するものじゃないから。微かに混じってるんだ。お母さんから貰ったんだね」
ウェズリーの言葉が、砂地に染み渡るように胸に広がった。
母から貰ったものが、私の身体の中に脈々と流れている。それは普段意識することもなく、むしろ私は母にちっとも似ていないと思い込んでいた。
栗色の髪もダークブラウンの瞳も父譲りで、傲慢な性格も父に似てしまったと思っていた。
私には母から受け継いだ血も流れている。
前王妃だった母は、私が五歳のときに亡くなった。絶対に忘れないと胸に刻んだ母の面影が、次第に曖昧になっていくことが哀しかった。
でも確かにこの私の中で共に生きているのだ。
「ありがとう、ウェズリー」




