初めての口づけ
デブラおばさんのカフェを出た。真っ直ぐ馬車乗り場へ向かうと思ったが、少しだけ寄り道していいかなとウェズリーが言った。
「古書店?」
「ううん、ここ」
服屋や靴屋が軒を並べる通りへ来ると、ウェズリーはアクセサリーショップで足を止めた。キラキラした可愛いデザインのネックレスや指輪が、ショーウィンドウに飾られている。
「ジェラルディンにプレゼントしたくて。何度か一人で見に来たんだけど、一緒に選ぶほうがいいかなって」
ウェズリーは恥ずかしそうに言って、背中からずり落ちそうなローザを背負い直した。
「あの、できたらその、ジェラルディンが嫌じゃなかったら、お揃いのブレスレットとか」
思いがけない提案に目を丸くした。お揃いの、ブレスレット。
「いい! それすごくいい。あ、でも今は手持ちのお金が」
「二つとも俺が買うよ。このお店にある物は、そんなに高くないから大丈夫。本当はジェラルディンに相応しい、高いお店の物を贈りたくて、年間チャンピオンを目指してたんだけどね」
「ウェズリーからのプレゼントなら何でも嬉しいし、別に贈り物なんてなくていいの。こうして、一緒に町を歩けることが何より幸せだわ」
「うん、俺も幸せ。でも俺が欲しいんだ。ジェラルディンとお揃いの、身に着けられるもの。一緒にいられないときも、そばにいると思えるから」
店内に入り、オシャレでおすすめ上手な店員さんに接客されて、二人でブレスレットを選んだ。
値段は気にせずに本当に気に入った物を選んでほしいとウェズリーが言い、二人で真剣に選んだ。ローザは手の空いている店員さんが引き取って、店の休憩スペースで寝かせてくれた。
「これ素敵」
「いいね、ジェラルディンによく似合うよ」
金の華奢なブレスレット。ワンポイントのチャームが付いている。
「こちらのチャームの宝石を選べるようになっておりまして、パートナーの方の瞳の色になさる方が多いですね。ペアブレスレットになっておりますので」
いいな。恋人らしく、そういうことしてみたい。ウェズリーの瞳の色ならアメジストだ。でも私の瞳は地味なダークブラウン。華がないのが私のコンプレックス。
「お客様ですと、こちらのブラウントルマリンでしょうか。柔らかく落ち着きがあって、男性でも身に着けやすい色合いかと」
さすが接客上手な店員さんだ、上手く言ってくれる。
「それがいい。ジェラルディンの瞳の色、すごく好きなんだ。見ていると癒されて落ち着くし、美味しそうって食べたくもなる」
ウェズリーが何の照れもなく堂々と言ってのけたので、私が照れた。
ブレスレットの留め具はスライド式で自由な長さで留められるので調整は不要で、その場で買って持ち帰ることができた。
華奢なデザインで重量は軽いとはいえ、純金で宝石付きなので想像以上の値段だった。
「お金、本当に大丈夫?」
アクセサリー店を出て、寝ぼけまなこのローザの手を引くウェズリーに聞いた。
「魔法の研究がんばって、また稼ぐよ。使い道が幸せだと、働くモチベーションも上がるし。ジェラルディンの笑顔を見るために生きたい。そうだ、帰る前に。ここで渡していいかな。派手じゃないから、着けてても大丈夫かな」
「うん、大丈夫だと思う」
通りがかりの公園で足を止め、アクセサリーの包みを開き、噴水の前でブレスレットを着け合った。
こんな場所でごめんね、とウェズリーは謝ったが、夕焼けの輝く公園はとてもロマンチックだった。厳かな手つきで、ウェズリーが手首に金のブレスレットを巻いてくれた瞬間は、まるで結婚式みたいだと思った。
「愛してるよ、ジェラルディン」
「私も愛してるわ、ウェズリー」
二人の左手首で揺れるチャームは、見つめ合うお互いの瞳の色だ。
初めての口づけを交わした。ふんわりとした甘さに包まれて、この優しさに永遠に浸っていたいと切に願った。




