亡命準備
サガミタ国王の話は、私たちにとってとても良いものだった。
ウェズリーには国立魔法研究所のチーフとして、平和的魔法の活用について研究してほしいとのこと。
「この国の英雄、エリオット・イーモン・マクスウエル王のお陰で、世界は平和になった。私は、魔法はもう戦争のためではなく、生活を便利にしたり、娯楽のために発展させるべきだと思う。我が国の魔法研究所では、新しい生活魔法や娯楽魔法を生み出したり、さらに効率化する研究をしているんだ。良いものができれば世界特許を取り、じゃんじゃん売って、世界中に広めたい。そうして儲けたお金を研究者に還元して、さらに良いものを開発してもらうんだ。研究には多額の費用と、研究者の情熱が必要だからね」
サガミタ国王はイキイキと述べた。
「優秀な若者を引き抜くに際しても、サポートとお金は惜しまないよ。君の大切な人は、私も大切にしよう。大船に乗ったつもりで、三人で来なさい」
良かった、とホッとした。私とローザも受け入れてもらえるのだ。遠く離れた外国まで逃れば、父の影響も及ばないだろう。ひっそりと穏やかに暮らして行けそうだ。
「船で、どのくらいかかるんでしょうか。サガミタ王国まで行くのに」
世界地理の教科書で調べた距離からすると、半年以上はかかりそうだ。
「船の種類によるね。貨物船だと一年、旅客船だと八カ月、魔法を動力にした高速船なら二カ月だね」
魔法を動力にした高速船は、王族や上位貴族の私有だ。私たちが乗船できるのは、普通の旅客船だ。
「まあ、船なんて使わなくていいんだけどね」
とサガミタ国王が言った。
「私は魔法陣を使って移動している。サガミタにある魔法陣と、この国の歓楽街にある魔法陣を繋いである。君たちに魔法陣利用の承認を与えよう。一瞬で我が国に来られるよ」
そっか、超便利な魔法陣があった!
「しかし承認を与える権限を持っているのは、私ではない。歓楽街の魔法陣に繋げてあるサガミタ内の魔法陣は、私の母が描いたものなんだ」
サガミタ国王のお母さん、といえば、私のおばあちゃんの妹さんだ。話に出てきて嬉しい。
「母はこの国の出身でね。昔はこちらの王族との交流もあったらしいが、英雄マクスウエルが王となってからは、先代王からの付き合いは薄れたようだね。母の姉が亡くなってからはすっかりね。それでも母はその名残か、ここと繋がっている魔法陣を手入れし続けて、維持しているんだ。昔はあの場所に歓楽街なんて無かったそうだしね」
「そうなんですか」
ウェズリーの反応が薄いのもあり、私は身を乗り出してうんうんと聴き入った。
「うん。だから母が使うことはなくなったが、私が遊びで使っていたんだ。そして収穫があった。ウェンツ、君を見つけたことだ」
そう言ってサガミタ国王は、胸元に着けている黄色いカサブランカのブローチを指でトントンと指した。
「この前の試合に君は欠場しただろう。もう潮時だと思って、ここで待つのも今日が最後にしようと考えていた」
目を軽くみはり、ウェズリーを見た。
「良かったです、神が私を見捨てなくて。今日お会いできて幸運でした」
ウェズリーは余所行きの満面の笑みで応じた。言葉遣いも礼儀正しい。
サガミタ国王は満足そうに頷き返した。
「君たちに承認を与えるために、一度母を連れて来るよ。魔法陣を使っての瞬間移動だから、それは大した負担じゃない。ただ場所の治安があまり良くないのでね、日中の明るい時間帯にしたい」
それはもちろんです、と二人で答えた。
「一番の問題はその使い魔だな。使い魔は人間の創った魔法陣を通ることができない。普通は返還して再召喚するんだが、返還できないとなると……仮死状態にして船便で輸送するか……三人で船で来るか……それだと八ヶ月、私は待ってもいいがね」
「仮死状態にできるか試してみます」
ウェズリーは迷いなく言った。
「そうか。ではその結果を聞いた上で、旅立ちの日を決めよう。期限は一週間でいいかな。また次の日曜日、同じ時間にここで」




