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デブラおばさんのカフェ

 日曜日になった。仮病を使い、影武者ちゃんと入れ替わり、変装してウェズリーと城外へ出た。

 目指すはマルゴール広場通り三丁目、デブラおばさんのカフェだ。 


 城下町にあるマルゴール広場はすぐに分かるが、デブラおばさんのカフェは――……


「ああ、その店なら次の角を曲がって、十メートルくらい先、パン屋の隣だよ」


 ウェズリーが通行人を呼び止めて聞くと、すぐに教えてくれた。


「兄妹かい? 可愛いねえ」


 ウェズリーと手を繋いでいるローザを見て、おばさんは目を細めた。乗り合い馬車では膝抱っこされていたが、降りてからはちゃんと歩いている。使い魔の成長は人より早いらしく、見た目年齢はもう三歳くらいだろうか。


 相変わらず一言も喋らない。ローザは上目遣いで話しかけてきたおばさんを見て、きゅっと唇を噛んだ。


「すみません、人見知りなもので。道を教えてくれて、どうもありがとうございました」


 ふんわりと笑って丁寧にお礼を言うウェズリーの、こういうところも好きだなと改めて発見する。場所が変われば、違う顔も見える。


『デブラおばさんのカフェ』という鉄製の吊り下げ看板を発見した。ここだ。

 カフェの名前は別にあるのかと思っていたら、そのまんま店名だった。小ぢんまりとしていて、薄灰色の、うっかり見落としてしまいそうな色彩のカフェだ。


 時刻は指定の午後三時よりもまだ少し早い。

 ウェズリーと顔を見合わせて、よし行くぞとアイコンタクトを交わした。


 キイイと軋むドアを開けて中に入ると、カウンターに座っている老婆がジロッと私たちを見た。


「いらっしゃい」


 随分とつっけんどんな接客だ。立ち上がる気もないようで、座ったまま値踏みするようにジロジロと私たちを見ている。たぶんこの人が店主のデブラおばさんなのだろう。


「ここで待ち合わせをしているのですが」


 とウェズリーは先ほどと変わらない丁寧さで言った。

 デブラおばさんの顔色が変わった。いきなり立ち上がり、大きな声で店内の奥に向かって怒鳴った。


「ちょっとあんた、ついに来たよ。てっきりワケありの人妻かと思ったら、子どもたちだ。別れた子どもたちかい、あんた!」


 ぎょっとしていると、今度はこっちに向かって怒鳴った。


「ほらほら、父ちゃんが待ってるよ。早く行ってあげな!」


 店の奥から、カサブランカさんが歩いて来るのが見えた。歓楽街で見たときと同じ、白いジャケットを着ている。その胸元には黄色いカサブランカのブローチ。


「ありがとう、よく来てくれたね」


 満面の笑顔でウェズリーにそう言ってから、私とローザを見た。


「こちらの二人のお嬢さんは、君のご姉妹かな?」


「小さいほうは妹ですが、彼女は恋人です」


「初めまして。お互いの自己紹介は、着席してから行いましょうか。どうぞ、ここに座って」


 すぐ近くのテーブル席を指定すると、


「人払いしましょう」と言って、カサブランカさんは店内に一人だけいた男性客のところへ行った。


「失礼します。お店を貸切にしたいので、出て行ってもらえないでしょうか」


「はぁん? なんだと、この野郎」


 食事はもう済んでいるようだが、いきなりそんなことを言われて怒らない人はいない。


「すみません、これで何とか。本当に申し訳ないです」


 カサブランカさんが男性客の目の前にお金を置いたので、さらにぎょっとした。


「お、おう。そんなら仕方ないなあ! 今日だけだぞ、こんにゃろう」


 紙幣を掴み取り出て行く男を見送ったカサブランカさんは、デブラおばさんとも交渉して、臨時閉店の看板を出してもらうことになった。


「二時間後に戻ってきて、戸締まりしてくださいね。それまでには話し終えますから」


「いーよいーよ! 好きなだけ話しな! 久々の親子水入らずなんだろ」


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