呪い
ウェズリーの言葉に嬉しさと恥ずかしさを覚えた。
見透かされていた。ウェズリーにご飯を与えることが私の生き甲斐だったこと。ウェズリーの前だけでは、しっかりした強くて優しいお姉さんでいられて、優越感を抱いていたことを。
そんな私の傲慢ささえも許して、好きだと言ってくれるウェズリー。
「タダ飯食らって七年間もお世話になってるのに、大きくなって恩返しするどころか、王女さまをさらって逃げようとしてるんだから、とんだ悪人だよね」
自虐的に笑って、ウェズリーは言った。
「ごめんね、好きになっちゃって」
「ううん、ありがとう。好きになってくれて」
私たち以外の人から見れば、私たちのすることは絶対に許されないことだろう。自分たちのことしか考えていないと非難するだろう。
それでも私はウェズリーと一緒にいたい。王女という肩書も、厳重に守られた暮らしも、歩むべき決められた道も捨てて。
罪悪感も、不安もたくさんあるけれど、その代わりに得られるものはこの両手いっぱいに抱きしめても、余るくらいに未知数だ。
大きな海原へちっぽけな舟で漕ぎ出すのだ。愛する人と二人で、勇気のオールを握って。
そのための準備はしっかりと。
別邸から王城へ戻り、自室にこもり世界地理の教科書を広げた。
サガミタ王国について調べた。遠方の小国で国交もないため、名前は知っていても詳しい知識がなかった。亡命先になるかもしれない国だ。予習しておきたい。
サガミタ国とその王族について調べていると、驚きの発見があった。
今のサガミタ国王のおばあちゃんのお姉さんが、私のおばあちゃんだったのだ。
うーん、ややこしい。私の亡くなったお母さんの実家のお母さん、つまりの私の母方の祖母の妹さんが、サガミタ国へ嫁いだ。そして生まれた息子が、現在の国王だということ。
遠い親戚ってことだ。
明日会うカサブランカさんは、私の親戚だ。そう知ると親近感が湧いてきた。
どうか良い人でありますように。話が上手くついて、私とウェズリーを受け入れてくれますように。それとローザも。
遊び相手ちゃんから情操教育を施されていたローザだったが、ボコボコにやり合った挙句、回し蹴りを習得して、遊び相手ちゃんをノックアウトしていた姿を思い出した。
情操教育というより特訓で、もはや趣旨が変わっていた。ローザの成長は目覚ましい。
返還魔法の習得は進捗しているのか、ウェズリーに尋ねたときに、気になることを言っていた。
「うーん、どうも誰かに邪魔されてるみたい」
「邪魔って?」
「返還魔法を使おうとすると、それを阻害する魔法が働く。いわば呪いだ。呪いがかけられてる」
「誰に?」
「分からない。でも呪うターゲットの居場所が
分かっていないと呪術は使えないから、ここにローザがいるって知ってる人間だ。もしかしてモーリス卿に話した?」
ブンブンと首を横に振った。
「話してないわ。禍々しい気配がするって言って見に来ようとしたときも止めたもの。植物園で魔界樹の苗木を育ててるっていう、魔法騎士長の説明に納得してたし」
「そっか……その魔法騎士長って、長って付くくらいだから凄い魔法使いなんだろうね」
「そうね。この国一番の魔法使いで、大魔法使いって呼ばれてるわ」
ウェズリーの険しい顔を見て、はっとした。
「ハワース魔法騎士長がその呪いを?」
「分からない。俺を上回る魔力じゃないと呪いで妨害できないから、可能性があるならその人かなって。でも、そうする意味が分からないし。とにかく早く、ローザを連れてここから離れなきゃね」




