遊び相手ちゃん
いつもの時間に別邸を訪れると、ウェズリーは創作魔法で『影武者ちゃん』を作成中だった。
「今日のうちに用意しておこうと思って。よし、仕上げは本物を見ながら」
ウェズリーの正面に立ってモデルになり、ときおり体の角度を変える。と、視界の隅でバタバタと動くものが見えた。
「何あれ」
ローザが、ボヨンボヨンした謎の物体と格闘している。
「遊び相手ちゃん。影武者ちゃんを創る要領で、創作魔法で適当に創ってみた。あれに夢中なお陰で作業に集中できてる」
なるほど、『遊び相手ちゃん』は影武者ちゃんほど精巧ではなく、適当に創ってある。人間の質感に似せる前段階の半透明のゲル状で、一応人の形はしているものの、雑で歪だ。
大きさはローザと同じくらいだ。ローザはすくすくと成長して、最初はよちよち歩きだったのが、今やジャンプもできる。髪の毛の伸びが早く、今は顎先くらいのショートボブだ。燃えるような緋色の髪だ。
ローザが右に体をひねれば、影武者ちゃんも右にぐにゃりと曲がった。左にひねれば、左へ。同じ動きを真似するよう、インプットしているようだ。
ローザが右手を出して影武者ちゃんをパンチした。すると影武者ちゃんもパンチを返して、それをまともに食らったローザは床へ倒れた。
「あっ!」
でもローザは決して泣かない。怒った顔をして起き上がると、影武者ちゃんに頭突きをした。そしてやり返される。
「危ないわ、止めないと」
「大丈夫。ローザと同じ力しか返ってこないから。やったらやり返される、優しくしたら優しくしてくれる。そう学ぶよ」
情操教育というやつか。ウェズリーはローザを甘やかしている印象があったが、意外と冷静だ。
「ウェズリー、聞いて。今日すごい情報を手に入れたの。明日会う予定のカサブランカさん、サガミタっていう国の国王らしいの」
「それ、どうやって知ったの?」
「モーリス卿から聞いたわ」
「モーリス卿は何で知ってるの?」
そう言えば、モーリスが暁の黒豹の身辺を探っていることをウェズリーに話していない。話はそこからだ。
「先週のストリートファイトの試合、実はモーリス卿に連れて行ってもらったの。モーリスは暁の黒豹がウェズリーなんじゃないかって気づいて、確認のために私を連れて」
これまでの経緯を話した。ウェズリーは終始難しい顔をして聞いていた。
「つまり、深夜にお忍びデートをしたってわけだ。モーリス卿の実家に泊まって家族と食事もして?」
「デートじゃないわ、偵察よ。不良化した弟の素行調査。ちゃんと聞いてた?」
責めるように言われて言い返すと、ウェズリーはぐっと言葉を飲み込んで、ふうと息を吐いた。
「ごめん、ヤキモチで冷静さを失った。話は理解したよ。つまりモーリスは俺が暁の黒豹であると知っていて、調査すべき対象だと思っている。調査して、場合によっては父親か他の誰かに報告する、と。それって、あんまり良いことじゃなさそうだよね」
「ウェズリーが魔法を使えること、どうして内緒にしているのか、訝しんでいたわ。公表すれば重宝されて、お城での立場も向上するだろうにって」
「ジェラルディンもそう思う?」
訊かれて返事に困った。豪快な英雄だと思われている父の内面を知っているだけに。
「ここで待ってればジェラルディンが会いに来てくれる、っていう特権を手放したくなかった。俺にご飯をくれるジェラルディンはすごく嬉しそうで、その嬉しそうなジェラルディンを見るのがすごく嬉しくて。下手に魔法が使えるって分かったら、どこかに追いやられそうで」




