罪悪感
土曜日の朝、モーリスが再び訪ねてきた。この前と同じように、二人で庭園を散歩しながら話した。
「一昨日の木曜日の夜は、暁の黒豹は現れませんでした。弟君はジェラルディンさまの言いつけを守ったようですね」
その報告に安堵した。歓楽街への出入りを絶ったと分かれば、モーリスがウェズリーを警戒する気持ちも薄まるだろう。
「見に行ったのね。会場の反応はどうだった?」
「そりゃあもう、大荒れでしたよ。暁の黒豹を出せー、勝ち逃げなんてフザケンナー!ってね。暴動寸前の大騒ぎでした。結局、先週勝ち上がった烈火のドラゴンか不戦勝で、暫定チャンピオンになりました」
「大変だったのね、お疲れさまでした。モーリスは毎週あの試合を観に行っているの?」
「以前は二カ月に一度程度、仕事の一環として観戦していましたが、暁の黒豹に魅入られてからは毎週ですね。彼をもう見れないなら、元の頻度に戻します」
ここにもファンがいた。実はモーリスって、ウェズリーのことがかなり好きなのでは。
「でもまだあの場所に関して、弟君関連で気になることがありまして」
とモーリスは話を続けた。
「毎週、黄色いカサブランカを持参する、弟君の熱心なファンがいるのですが」
カサブランカさんだ。ウェズリーを熱心にスカウトしているという、どこぞの領主貴族。
「気になってよく調べたところ、あの紳士はサガミタ王国の国王である可能性が高いのです。彼も歓楽街の魔法陣を使って移動しているので、確かな証拠は掴めませんが」
国王!? サガミタ王国……名前は聞いたことがあるが、遠方の小国で国交はない。
「へえぇ、それが本当ならすごいわね! お忍び観戦なんて、よっぽどの格闘マニアなのね」
動揺を隠すため、ちょっとはしゃいでみた。
「ウェズリーはあの界隈からキッパリ足を洗ったから、今後はもう会うこともないでしょうね」
本当は明日会う予定だ。ここでモーリスに悟られるわけにはいかない。
「そうですね、暁の黒豹の正体を知っているのは、私とジェラルディンさまだけですし。私たちで食い止まって、良かったです」
モーリスは私の目を見て、まるで同志の絆を深めたような顔をした。
違うのに。婚約を承諾したように見せかけて、裏ではウェズリーと駆け落ちの画策をしているのに。裏切って、逃げようとしているのに。
罪悪感をひしひしと感じる。
駆け落ちを決行したら、モーリスは婚約寸前で逃げられた男として、世間の好奇の目に晒されるだろう。
でもモーリスは格好良くて家柄も良くて優秀だから、きっと大丈夫だ。世の女性が放って置かない。傷心の公爵令息を慰めようと、令嬢たちが群がってくるに違いない。
悪者になるのは私とウェズリー、それでいい。
「どうかしましたか? 私の顔に何か」
「いいえ、モーリスは本当に良い顔をしているな、と思っただけよ」
モーリスは面食らったような顔をしてから、微笑した。
「ジェラルディンさまがそんなことを仰るなんて、やっぱりどうかしてますね。風が出てきたので、そろそろ戻りましょうか」
すっと片手が差し出された。
「お繋ぎしても?」
手を繋いで王城へと向かった。罪悪感が増殖されていく。




