ヤキモチ
「お待ちください!」
強い制止の声に驚いて振り向くと、ハワース魔法騎士長が五メートルほど後ろに立っていた。
後ろで一つ結びにした長い銀髪と片目の眼帯がトレードマークだ。常に眉間をしかめていて、厳しい表情を崩すことがない。王族お抱えの大魔法使いだ。
「モーリスさま、王女殿下を置いてどちらへ?」
「あちらの植物園のほうから、何か禍々しい気配を感じたもので」
「それでしたら、私が研究のために栽培している魔界樹の苗木から漂っているのでしょう。魔養土で育てております。私がきちんと危険管理をしておりますので、ご心配には及びません」
「そうでしたか……そうですよね。大魔法使いハワースさまがおられる王城で、あれほどの気配を野放しにしているわけがありませんね。出過ぎた心配をいたしました」
モーリスはにこりと笑い、敬意を表すポーズを取った。魔法騎士長は片目を閉じてそれに応じ、
「王女殿下のおそばを離れぬよう、よろしくお願い申し上げます」
長いマントをくるりとひるがえして、去って行った。
た、助かった〜!!
モーリスが帰ったあとに、急いで別邸へ向かった。
別邸では、リビングのカウチソファーでウェズリーがうたた寝していた。
ウェズリーの膝の上に乗っかり、向かい合ってくっついて寝ているのは、赤ちゃん使い魔のローザだ。名前がないのも不便だからと、ウェズリーが名付けた。使い魔には性別がないが、瞳がピンクローズ色なので、そこから取ったらしい。
もっちりしたほっぺをウェズリーの胸に押しつけて、唇をもにゅもにゅ動かしながら眠っている。夢の中で、ウェズリーの魔力を食べているのだろうか。幸せそうだ。
ウェズリーの目がパチリと開いた。
「ジェラルディン。起こしてくれていいのに」
「ローザも起こしちゃうかなと思って」
「一回寝たら爆睡だから、大丈夫」
ずり落ちているローザを抱き直して、ウェズリーが言った。
するとローザはもぞもぞと動き出し、目をつぶったままウェズリーの体を這い上がって、首すじに顔を埋めた。
「ひゃっ、くすぐったい。ダメダメ、ローザ」
引っ剥がそうとするも、無意識の力強い抵抗にあっている。
「すごい食いしん坊でさ。俺のこと食べものと認識してるみたい。噛みはしないけど、ペロペロ舐めてきたり、ちゅうちゅう吸ってきたり、ちょうだいちょうだいってせがむの、くすぐったくて死にそうになるよ」
いつの間にそこまで蜜月な関係に。早く帰せるように頑張ると言っていたのに、すくすく育てちゃってるし。ベタベタいちゃいちゃしちゃって、おかしいと思わないのかしら。
「ウェズリー、返還魔法の練習はちゃんとやってるんでしょうね? ここでローザを隠し飼いするのにも、限界があるのよ。さっきもモーリス卿が、禍々しい気配がするから見に来るって言って、やばかったんだから。たまたま魔法騎士長が現れて止めてくれたから、良かったものの」
プリプリ怒りながら伝えると、モーリス卿って?とウェズリーは尋ねた。
「ドランスフィールド公爵の息子。前にスイーツカフェで会った人よ」
「ああ、あの格好いい人。魔力持ちなんだね」
そうだ、モーリスとの婚約のこと、ウェズリーに伝えなくちゃ。ウェズリーのことを好きだと告白してすぐに、別の人と婚約することを。
自分のことを棚に上げて、赤ちゃんのローザに嫉妬している場合じゃなかった。




