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禍々しい気配

 翌朝、予告通りにモーリスが城を訪ねてきた。


「先日はどうもありがとうございました。父宛てに送ってくださった御礼状も、父がいたく感激しておりました」


 ドランスフィールド公がお留守中の公爵家にお邪魔したので、帰宅してすぐにお礼状を送っておいた。公爵夫人がお土産をたくさん持たせてくれたお礼も兼ねてだ。


「文字が美しく丁寧で、ジェラルディンさまのお人柄が表れていると」


 単に、幼年期から必死で文字の練習帳に取り組んだ成果だ。


「あの、父から聞いて驚いたんだけど、婚約が決まったって、どういうこと?」


 二人きりで親睦を深めるという名目で、私たちはいま、王城の敷地内の庭園を散歩している。

 モーリスが「ジェラルディンさまは私がしかとお守りいたしますので」と格好よく護衛のお供を断ったので、気兼ねなく話せる。


「どういうことも何も、婚約の話は父を通すと言いましたよね? ジェラルディンさまも納得されましたよね。父に話を通した結果、トントン拍子に事が進んだ、ということです」


「てっきり公爵は反対されるものだとばかり……」


「家族みな、賛成です。ジェラルディンさまが乗り気でないのは存じ上げています。でも私と結婚して良かったと、思っていただけるように努力いたしますので」


 モーリスは諭すように言った。


「どうか私にお委ねください」


 六歳年上だからか、説得力と安心感がある。自信に満ちた強い輝き。


「ところで、」


 とモーリスは語調を変えて、こちらが本題だとばかりに切り出した。


「弟君は今日はどちらに? お城にいらっしゃいますか?」


 本城を眺めて、できたらご挨拶をと言い出したので慌てた。


「あっ、今日は予定が。前もって言ってもらえたら、会えないこともないと思うけど……」


 モーリスはウェズリーが別邸で一人暮らしを強いられていることを知らない。

 モニークの誕生日パーティーで見たときのように王子然として、王城で教育を受けていると思っているのだ。

 そして、木曜日の深夜になると魔法陣を使って歓楽街に出没していることを知っている。


 そういえば今日がちょうどあの日から一週間後の木曜日だ。

 歓楽街にはもう二度と行かないと約束してくれたのは安心だが、勝ち抜きチャンピオンが連絡もせずに不出場というのは、礼儀に欠くのだろうか。アンダーグラウンドでのマナーがよく分からない。


「では近いうちにぜひお会いしたいと、お伝え願えますか。弟君とお話する時間をいただきたいです。一緒にお茶でも、ぜひ」


 口調は穏やかだがグイグイくる、ウェズリーに会いたい熱量がすごい。挨拶だけと言っていたのが、一緒にお茶をしたいに変わっている。


「ウェズリーの魔法陣について、調べたいのよね」


「ええ。他にも色々お聞きしたいですね。あの暁の黒豹と話せるのですから」


 不敵な笑みを浮かべるモーリスにただならぬものを感じた。

 思い返せば、最初からモーリスは、ウェズリーのことを知るために私に接触してきたのだ。暁の黒豹がウェズリーと同一人物であるかを確認したくて。そしてウェズリーのことをもっとよく知るために、調査をしたいと言い出した。

 そのためには私との婚約もいとわない。

 

「さっきから、あちらの方角が気になるのですが……」


 モーリスが植物園のほうへ顔を向けた。


「とても嫌な気配を感じます」


 植物園のさらに奥にはウェズリーの別邸がある。


「嫌な気配?」


「禍々しい気配です。あちらに何かありますか?」


  まずい、きっとあの子の気配だ。赤ちゃん使い魔ローザちゃん。いまだ帰らせられず、ウェズリーのもとですくすく育っている。


「えっ、何も感じないわ。気のせいでは」


「ちょっと見て来ますね」



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