赤ちゃん使い魔
見つめ合う、愛し合う二人。いい雰囲気だ。自然と顔が近づいて……
ドサッという大きな音が隣室から聞こえ、驚いて離れた。
「あっ、忘れてた!」
ウェズリーが寝室の方を振り返って言った。
「なに? 隣に何かあるの?」
「紹介する。驚かずに見てくれる?」
驚かないのは無理だった。
ウェズリーの寝室にいたのは、小さな子どもだった。子どもというより赤ちゃんに近い。大きめの赤ちゃん。ベッドで寝ていて、転がり落ちたらしい。強い子らしく、まったく泣いていない。もぞもぞしている。
「お〜よちよち」
抱き上げてあやす、ウェズリーの手つきは慣れている。いやいやちょっと待って。
「ウェズリーの子ども?」
まさかとは思うけど要確認。いかがわしい看板が立ち並ぶ、歓楽街の光景が思い出される。
「この世界ではそうなるのかも」
「どういうこと?」
「この子、使い魔の赤ちゃん。練習で召喚したのはいいけど、帰ってくれなくて」
目を丸くして、ウェズリーに抱かれている赤ちゃんを見た。
使い魔? 普通の赤ちゃんと変わらないように見える。
「ほら、あ〜ん」
ウェズリーが口に指を入れて開かせると、赤ちゃんの歯は全て生え揃っていて、ギザギザと尖っている。舌の色は黒紫色だ。うん、人間離れしている。
でも口を閉じてさえいれば、可愛い赤ちゃんだ。目はピンクローズ色だ。
「帰ってくれないって、どうするの?」
「帰らせられるまで、責任持って面倒見るよ。と言っても食事や排泄はしないし、手はかからないんだ。魔力を持続的に微量、分け与えてやるだけでいい」
「そうなのね」
「うん。泣かないし喋らないし、静かだから、しばらくここに置いてても大丈夫かな?」
この別邸には私しか訪れないから、人目にはつかないだろうけれど。
「使い魔って、悪いことはしないの?」
召喚魔法について、ストリートファイトの試合を観戦したときに、モーリスが教えてくれたことを思い出した。
召喚魔法とは、魔物を呼び出す魔法で、かなりの上級魔法である。使える者はほぼおらず、召喚した魔物が暴走したら大惨事が起きると言っていた。
「暴走することもあるって聞いたことがあるわ」
「主人の命令に従うのが使い魔だからね。言うことを聞かせられずに暴走するってことは、召喚レベルが見合ってなかったってことだ」
「この子も、ウェズリーの言うことを聞かずにいるのよね? 帰れと言っても帰らないんだから」
「言われてみれば……」
点、点、点、と沈黙が続く。
「まあ、今のところは大丈夫だよ。大人しいし、ちゃんと目を離さないようにするから。返還魔法の習得も頑張るし」
ウェズリーが赤ちゃん使い魔の頭を撫でながら言った。一抹の不安は残るが、この光景は癒やしそのものだ。天使のように可愛いウェズリーが、天使のように可愛い赤ちゃんを愛でているのだから。実際は使い魔なのだけど。




