告白
翌日、ウェズリーに報告した。婿取りを希望していた貴族令嬢には、義母が丁重にお断りしたらしいと。ウェズリーはホッとした様子で笑った。
「良かったあ」
「うん」
でも、と続けて思った。今回はこれで良かったが、またこういうことがあるかもしれない。そのたびに義母が勝手に断りを入れるのか、いつか父へ話が行くのか。そもそもいつまでこうして、ウェズリーを飼っておくつもりなんだろう。どんどん成長していくのに。
教育をして婿に出すつもりはない。公務に就かせる気配もない。無能で不要なものというレッテルを貼ったまま、この別邸に永遠に放置するつもりなのか。
きっとウェズリーのことを何も考えていないのだ。惰性でただ飼っている。飼い殺しだ。
「どうかした?」
「えっとあのね、今回はお義母さまが勝手に断ったけど、貴族に望まれて婿入りするって、ウェズリーにとっては良い話、だよね」
ウェズリーの将来を考えたら、父へ直談判するなりして、取り持ってあげるべきだったのかもしれない。
「全然良くないよ。ジェラルディンに会えなくなるんでしょ。絶対嫌だ」
ウェズリーが拗ねるように言った。
「ジェラルディンは俺にそうしてほしいの? 一生一緒にいたいって言ってくれたのは嘘?」
「嘘じゃないわ。ウェズリーと一生一緒にいたい。でも、ずっとこのままじゃいられないの。私も……いつか嫁に出されるかもしれない」
父は無関心で義母には嫌われ、貴族から避けられている王女だから、結婚は無縁だと思っていた。
だけど急に父や義母の気が変わって、突然嫁に出される可能性もある。義母が取り仕切るとしたら、わざと難ありの相手を見つけてくるに決まっている。いつもの嫌がらせの集大成だ。
そうなったら、誰がここでウェズリーのことを気にかけてくれるだろう。
「そっか、ジェラルディンはお姫さまだもんね。いつかどこかの王子さまと結婚しちゃうんだね」
ウェズリーが寂しそうに顔を歪めた。
「じゃあそのときが来たら、俺もここを出る。ジェラルディンに会えなくなったら、いる意味がないから」
「ここを出てどこへ行くの?」
「ジェラルディンに会いに行くよ。必ず」
ああ、そう約束してくれるだけで十分だ。
いつか難あり婚をさせられたときに、いつかウェズリーが会いに来てくれると、心に希望が抱ける。
でも本当は今すぐ手と手を取り合って、どこか遠くへ駆け落ちしたい。誰も私たちのことを知らない場所で、ウェズリーと毎日楽しく暮らしていけたら。どんなにいいだろう。
「ウェズリー…………大好き」
「俺も好きだよ」
溢れ出た想いの丈をウェズリーが受け止めてくれた。でも違う、そうじゃない。私の好きは。
「姉弟としての好きじゃないの。今すぐさらって逃げてほしい、そう思うくらい好きなの」
言ってしまった。もう取り返しがつかない。
「俺も同じ。ジェラルディンのことを姉だと思ったことは一度もないよ。ジェラルディンは一番大切で愛しい人。今までもこれからもずっと、愛してる」
目をみはった。可愛い弟だったウェズリーが、今やぐんと大人びて、色気さえ感じさせる艶っぽい瞳で私を見つめている。
姉だと思ったことが「一度もない」と言うのはそれはそれで少し寂しいというか、複雑だけど、何もかもを吹き飛ばす後半の言葉。
一番大切で、愛しい人。
今までもこれからもずっと、愛してる。
心に刻んで永遠に反芻しよう。鬼リピ確定だ。
「でもちょっと待ってね。今すぐは無理だけど、もう少し待ってくれたら、できると思う」
「え?」
「ジェラルディンをさらって逃げるの」
「え!」
「どこかの王子さまにお嫁に行く前に、俺がさらって逃げてもいいんだよね?」
「えっ、いやそれは、」
「それは嫌? 結婚するならやっぱり王子さまがいい?」
「ううん、結婚するならウェズリーがいい。でも現実的に考えて、無理に決まってる。世間から見れば、私たちは姉弟だし、どうやって逃げて、どこでどう暮らしていくのか。暮らしていけるのか……」
「ジェラルディン、心配しないで。現実的に考えて、可能にしてみせるから」
こんな弟は知らない。いや、弟じゃない。私の一番大切な愛しい人。




