縁談の行方
ウェズリーはその件について何も知らなかった。寝耳に水という感じで、キョトンとしていた。義母に突撃した。
「ああ、それなら断ったわ」
義母の言葉で嬉しくなることがあるなんて、奇跡だ。断ってくれていた!
「何を勘違いしたのか知らないけど、あの子を婿に取れば王室と縁戚になれるとでも思ったのかしら。この前はエルドレッドの服を着させていたからまるで王子のように見えたんでしょうけど、中身は乞食同然の捨て子。恥ずかしくて外へ出せるわけがないでしょう。私たちが恥をかくだけよ」
ぶっ飛ばしてやろうかと思った。ぐっと握りしめた拳を、もう片方の手のひらでぎゅっと包んだ。
「私はそう思いません。ウェズリーはたった三週間で社交マナーを身に着け、ダンスを踊れるまでになりました。読書好きで賢い子です。家庭教師を付けて勉強させれば、きっと目覚ましい成果が……」
義母の大きな扇が、パンっと音を立てて開かれた。ブワッと強い風が吹いて、私の言葉を遮った。
「無駄無駄。意味がないわ。そんなことをして何になるっていうの」
本当に無駄だ。この人と話しても意味がない。
汚い捨て子だと最初にレッテルを貼ったきり、ウェズリーの本質を見ようとしない。私に貼られたレッテルは『可愛げのない前妻の娘』
いっそ言ってしまおうか。
ウェズリーが魔法を使えることを。才能が開花し、みるみる枝葉を伸ばしていることを。いつかこの城を覆い尽くすほどの脅威に成り得るかもしれないと。
モーリスの言葉が胸をよぎる。
『類まれなる魔法の才能があると分かれば、もてはやされ、国務の重要なポジションに就けるのではないですか。なぜそうせず、あえてアンダーグラウンドな遊びに興じているのでしょう。ジェラルディンさまならお分かりですか?』
どうだろう。想像を巡らせる。
ウェズリーが実はすごい魔法使いで、私たちよりも遥かに優れている。そう知って、私たち家族は手放しで喜ぶだろうか?
国王である父は魔王を倒した英雄だが、魔法使いではない。そのことにコンプレックスを抱いている節がある。
魔法使いは希少な血で、選ばれし存在だ。よって貴族に多い。魔法使いではない王族がその一番上に立ち、国を治めている。そのことに少し負い目のようなものを感じている気がする。
外面では豪快で寛容な英雄なので、そんなところは微塵も出さないけれど。
王太子である兄に、魔法使いの婚約者をあてがったのも、次世代の王族には魔法使いの血を望んだからだろう。
それならば自分が魔法使いと再婚すれば良かったのに、コンプレックスゆえにプライドが許さなかったのだ。妻に劣等感を抱く国王にはなりたくないと。
そう考えると、拾い子のウェズリーが「実は素晴らしい魔法使いでした」は果たして嬉しいお知らせだろうか。表向きは喜んで歓迎するかもしれないけれど。
ウェズリーが周りにもてはやされて、魔法使い信奉者の支持を得て、本物の王族より人気になってしまったら? 絶対に面白くない。
敵対視されて転落の人生か。それとも反王家勢力に取り込まれて利用される捨て駒に。
あらゆるストーリーが頭を駆け巡り、結論づいた。ウェズリーにはのほほんと、平穏に幸せに生きてほしい。それが全てだ。それ以上に大事なことなんてない。




