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提案

 その場はモーリス卿がなんとか収めた。

 まずはドランスフィールド公に話を通してから、国王陛下へ打診すべきだということで、アリスンも納得した。


「でもそうしたら、ますます後に引けなくなりませんか?」


 帰りの馬車のなか、モーリス卿と話し合っている。モーリス卿も王都へ戻るので、ついでに乗せて行ってほしいと頼まれ、快諾した。

 大変なことになってしまったので、今後のことを相談しておきたい。

 父とドランスフィールド公は古い仲間で気心が知れている。


「そうですね」


 とモーリス卿は神妙な顔で頷いた。


「すみません。私がモーリス卿のベッドで朝まで寝てしまったばっかりに、大変なことに」


「いえ、それもこれも全部、私の責任です。それでですね、よく考えたのですが、私たち本当に婚約しませんか」


 目玉が飛び出るかと思った。


「え!」


「世間体の問題は大きいですし。憶測で勝手な噂が広まる前に、正式な発表を出すのが一番です。それに、今後弟君に関する調査にご協力いただく際にも、周りに怪しまれずに二人で行動しやすいですし」


 絶句。こんなに度肝を抜かれたのに、正論しか言っていない感。えっと驚いたきり、声が出ない。


「あ、もちろん」


 とモーリス卿は言い足した。


「ジェラルディンさまをお慕い申し上げているというのは、大前提です」


 なんだか白々しい。


「ジェラルディンさまはどう思われますか。自分で言うのも何ですが、結婚相手として、条件はそう悪くないと思うのですが。どうしても生理的に無理だというので無いのなら」


 そう言ったモーリス卿は顔つきを少し変え、じっと私の目を見た。


 この顔で見つめれば、全人類のハートを射抜けると確信しているような、あざとい戦略的な表情だ。美形ってずるい。

 心のなかでそう非難してみたところで、口説かれ経験ゼロの私には、太刀打ちできない。ただただ絶句するのみ。


 結婚? 私とモーリス卿が? 本気で?

 ウェズリーの顔がぱっと浮かんだ。

 じゃあウェズリーはどうなるの? 離れ離れ? 

 

 思考がぐるぐるする。モーリス卿の蒼い瞳に捉えられて、逃げられない。


「とは言っても、まずは父を通さなくてはいけませんね」


 小さく息を吐いて、モーリス卿が言った。


「とりあえず、今は仲の良いお友達ですね。これからは敬語抜きで、モーリス、と呼び捨てしていただけると嬉しいです。いつかの貸しはそれで帳消しに」


「いいんですか、それで」


「はい。呼んでみてください、モーリス、と」


「モーリス」


 恥ずかしさを押し殺して、棒読みした。


「はい。ジェラルディンさま」


「モーリスは様付けなの?」


「もちろんです、王女殿下。仲の良いお友達から恋人に昇格した暁には、ジェラルディン、と呼ばせていただきたいですが」


 ジェラルディン、という響きだけがゆっくりでやけに甘く感じた。


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