偽装工作
見慣れない風景の中に、心配そうに私を見ている男の人がいる。明るい金髪にサファイア色の瞳。
それがモーリス卿だと気づいてハッとした。
「お目覚めですか、良かった」
ほっとした口調で言われた。寝起きでまだ頭がぼんやりする。
「えっと私……急にものすごく眠くなって……」
あのまま寝てしまったのか!
ここはモーリス卿の部屋だ。その上、モーリス卿のベッドで寝ている。深夜抜け出したときの変装用ワンピースのまま。
「すっ、すみません!」
「申し訳ございません。魔法陣の承認を行うのが初めてでしたので、お裾分けした魔力が切れたあとに、あれほどの反動が来るとは知らず……」
「えっ、あ、それで」
どうりで急に異様に眠くなったわけだ。
「申し訳ございません」
「いえ、こちらこそすみません。ベッドを使わせてもらって」
意識がプツリと途絶えるようにして寝てしまったのに、体のどこも痛くない。床で打つ前にモーリス卿が受け止めて、ベッドに寝かせてくれたのだろうと想像した。
はっと気づいた。
「モーリス卿はどこで寝られたんですか?」
「寝てません」
「えっ」
「ご心配なく。一日くらい眠らないことは仕事でよくありますので」
柔らかく微笑まれる。
「ジェラルディンさまは大丈夫ですか? 体を動かして平気なようでしたら、とりあえずお着替えをして、朝食を取られますか」
徹夜しても衰えない仕切り能力に舌を巻いた。シゴデキだ。親の威光を笠に着たボンボンだとばかり思っていた頃の自分をグーで殴りたい。
「今日のお着替えはお部屋に置いてあるんですよね。メイドに持ってこさせますので、ここで身支度なさってください。私は別の場所で支度いたしますので、朝食の席でまたお会いしましょう」
「はい、あの、えっと……」
段取りは素晴らしいのだが何かが引っかかる。
「この状況って、かなりまずくありませんか?」
「とおっしゃいますと?」
「晩餐のあと、モーリス卿の部屋に来て、そのまま朝を迎えてしまったという状況です。それって周りから見たら、完全に――」
やっちゃいましたね、って思われない?
「大丈夫ですよ。部屋でワインを飲んで話が盛り上がり、酔っ払って寝てしまった、と皆に説明しますので」
言いながら立ち上がったモーリス卿は、棚からワインボトルとグラスを二脚、取り出した。ワインのコルク栓を抜き、グラスに少量注いだ。
「偽装工作です」
と言って唇を濡らす程度に飲むと、ワインボトルの中身はすべて部屋付きの手洗い場に流し捨てた。




