寝落ちる
地下室は冷えるため、モーリス卿の部屋へ移動した。
モーリス卿の「気にかかること」はいくつかあるそうだが、まずは魔法陣について。
「暁の黒豹も、歓楽街の魔法陣を使って移動しています。一度後をつけて、この目で見ました」
後をつけて、というところに少し引っかかったが、とりあえず流した。
「はい」
「どこに繋がっているんでしょうか」
「ウェズリーの……」と言いかけて、気づいた。
別邸で、魔法陣なんて一度も見たことがない。あんなに目立つものがあれば絶対に目につくはず。
いや、実はそうでもないのかな? 私が立ち入らない部屋もあるし、隠そうと思えば隠しておけるのかも。家具でカモフラージュしたり。
昔は別邸の掃除をすることもあったが、あるときから「自分でするからいい」と言われて、本人任せになった。言ったとおり自分でちゃんとしているようなので、安心していた。
「魔法陣って、布や敷物で隠したりできますか?」
「気を通しておかないといけませんので、物で覆うのはご法度です」
「じゃあ壁に描いて、少し離れたところに家具を置いて隠すのは」
「うーん、密着していなくても、覆い隠す感じは好ましくありませんね。魔法陣が早く薄れてしまいます。弟君はそのようにしているということですか?」
「もしかして、そうなのかなって。一から描くと十八時間かかるんですよね。隠しながら少しずつ描いて、描き上げたのかなと」
「十八時間というのは、私の場合ですので。熟練の魔法陣描き師なら、四、五時間です。弟君も私よりは早く描けるのでしょう」
「そんなに違うものなんですか」
「魔法使いにも、得手不得手な分野がありますので。しかし可能性の話で言うと、」
とモーリス卿は言葉を区切った。
「王城の敷地内に、魔法陣は設置できません。魔法陣設置防止の結界が張られていますので」
「えっ、そうなんですか」
「でないと、暗殺楽勝になってしまいます。王城には色々な者が出入りしますので、あらゆる芽を摘んでおかないといけません」
言われてみれば確かに。すごく便利だと感じた魔法陣だが、使い方によっては諸刃の剣だ。どこからでも来て、どこへでも出て行ける、というのは。
城内にあらかじめ魔法陣を仕掛けておけば、いつでも好きに出入りできるのだ。人を殺して逃亡することも、暗殺者を中から手引きすることも簡単だ。
「ですので、弟君の魔法陣は別の場所にあるはずです」
「なるほど。公共の魔法陣から公共の魔法陣へ移動、というのは可能ですか?」
「いえ。出入り口の一方は、必ず決まった一カ所に縛られていないといけません。どこへでも行ける魔法陣から、どこへでも行ける魔法陣には出られません」
「そうですか、難しいですね。ということは、ウェズリーはどこかに個人の魔法陣を持っている……」
真剣な話をしていても、急に眠くなってきた。こんな時刻に起きていることって普段ない。
「あ、っと。申し訳ございません、こんな時間まで。お疲れですし、眠たいですよね。お休みに……」
モーリス卿の声が遠ざかる。まぶたがどろんと重くなり、落ちてくる。
「ジェラルディンさま?」
ぐにゃんぐにゃんに歪む視界。眠い、眠くてもう限界…………思考がプツリと途切れた。




