暁の黒豹
ふらつきながら起き上がろうとした残まじゅに、烈ドラは容赦ない追い打ちをかけた。反撃は抑え込まれ、残まじゅは降参の合図をした。
「勝者、烈火のドラゴーーーンっ」
高らかな勝利宣言に、烈ドラが拳を突き上げて歓声に応えた。賞金の入った袋を司会者から受け取り、興奮冷めやらぬ足取りで会場を後にした。
敗れた残まじゅはよろよろとした足取りで、鼻血を垂らしながら肩を落として出て行った。
二十分の休憩を挟み、いよいよメインのチャンピオン戦が始まろうとしている。司会者が期待感を煽り、チャンピオン『暁の黒豹』と挑戦者『ブラックハンマー』の戦歴と見どころを語っている。
暁の黒豹と、ブラックハンマー。どっちも黒だなと冷静に思った。だけど暁の黒豹は略すとアカ豹? 黒なのか赤なのか、ややこしいな。などと、どうでもいいことに気が向くのは現実逃避の兆候だ。
「大丈夫ですか?」
モーリス卿が、心配そうに私の顔を覗きこんだ。
「すみません。試合をご覧になってどれほどのショックを受けるか、配慮がまったく足りていませんでした。もう帰りましょう」
えっ! ここまで来て!?
席を立とうとするモーリス卿の腕をがっと掴んだ。
「待ってください。ここまで来て、このタイミングで帰るなんて、ありえません。見ます、大丈夫です。暁の黒豹が本当にウェズリーなのか、この目で確かめないと。気になって眠れません」
ここで恐れをなして帰ってしまっては、何もかも水の泡だ。皆の誤解を招いて公爵家を訪れたことも、あの晩餐会に耐え抜いたことも、モーリス卿が十八時間かけて描いた魔法陣も、用意してくれた服もチケットも全て無駄になる。
「大丈夫ですので。すみません、心配をかけて」
にっと笑ってみせると、モーリス卿は腰を下ろした。
そのタイミングで、司会者が雄叫びを上げた。チャンピオンと挑戦者の登場だ。
歓声を浴びながら登場した『暁の黒豹』に、私の視線は釘づけになった。
黒尽くめの服に身を包み、まるで盗賊のように顔も黒い布で覆っているため、ハッキリ見えるのは目元だけだ。
それでもすぐに分かってしまった。
ウェズリーだ、間違いない。あの体型にあの姿勢、あの佇まい。雰囲気だけでウェズリーと分かったが、アメジスト色の瞳を見て、確信した。
「弟君で間違いないですか?」
モーリス卿の問いかけに、多分と答えた。
あれはウェズリーだ。でもいつものウェズリーとは別人だ。アメジスト色の瞳に、見たことがない殺気がみなぎっている。自分より遥かに図体のでかい敵を睨みつけ、威圧している。
対戦相手の『ブラックハンマー』はムキムキマッチョだ。上半身なぜか裸で、褐色の肌をしている。腕が丸太のように太い。特に右腕が異様に大きく、ガニ股で横にどっしりした体型だ。片側のハサミだけが大きいカニを連想させた。
試合開始のゴングが打ち鳴らされた。




