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試合開始

 まもなくして一試合目が始まった。司会者が大げさな前口上を述べたあと、対峙する二人の選手を紹介した。

 炎のような赤毛でゴツゴツと角ばった男が『烈火のドラゴン』で、アッシュグレーの短髪で細マッチョな男が『残像の魔術師』だ。


 初めて観戦する客のために、簡単にルール説明がなされた。

 試合時間は無制限。どちらかが参ったと言うか、参ったというポーズを示すか、それができないほど戦闘不能になれば勝負が決まる。

 武器と、放つ系の魔法と召喚魔法の使用は禁止。勝敗を賭け事の対象にするのも禁止。


「大っぴらに賭け事をするには国の許可が要りますしね。大金がかかると八百長も蔓延しますし」


 モーリス卿が説明を補ってくれる。


「放つ系の魔法というのは?」


「飛ばして攻撃する魔法のことです。観客や会場に被害が及ぶといけませんから」と教えてくれた。


「召喚魔法は?」


「魔物を呼び出す魔法です。かなりの上級魔法なので、使える者はいないと思いますが、念の為。こちらも飛び魔法と同じ理由で禁止されています。召喚した魔物が暴走したら大惨事ですし」


 なるほど、それは恐ろしい。


「逆に、使っていい魔法ってあるんです?」


「肉体を強化して拳を重くしたり、衝撃を吸収する魔法などの、肉弾系の魔法なら使用可能です。しかし、魔法を使わずに速さで先手を取ったほうが強いこともあります」


 観戦しながら説明に耳を傾ける。

 現にいま戦っている『烈火のドラゴン』と『残像の魔術師』では、魔法を使わないドラゴンのほうが押している。

 残像の魔術師が魔法を詠唱するよりも早く、拳を連打している。パンチパンチパンチ、キック、かわされる。

 烈火のドラゴンはパワーで押しているが、残像の魔術師は速さで切り抜けている。


「いっけー! ドラゴン! やっちまえ!」

「残まじゅ、負けるなー!」

「ぶちのめせ、烈ドラー!!」


 ワーワーと歓声と怒号が飛び交う。観客席も選手と同じくらい殺気立っていて、会場全体に一体感がある。

 私も前のめりで観戦しながら、気が気ではなかった。純粋に応援できないし楽しめない。

 

 なぜなら、この次の試合に出てくるのが『暁の黒豹』だからだ。それが本当にウェズリーなのか、いまだに半信半疑で、信じたくない気持ちが勝るが、もし本当にウェズリーだったら。

 この異様な熱狂の嵐の中、暴力が正義だと言わんばかりの狂った男たち相手に、本当にまともに戦えるのだろうか。


 烈ドラのパンチをもろに顔面に食らい、鼻血を吹き上げながら飛んだ残まじゅを目にして、思わず悲鳴を上げた。歓声でかき消される。

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