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別邸で一人暮らし

 城の敷地内にある小さな別邸――モニークに言わせると犬小屋――に弟は一人で住んでいる。


「ウェズリー、来たわよ」


 入口で声を張り上げ、バスケット片手にずかずかと入っていく。

 弟のウェズリーは、日当たりのいい窓際のカウチソファーでうたた寝していた。

 昼下がりの午後。無防備な寝顔を眺める。少し癖のある豊かな黒髪、陶磁器のようなきめ細やかな肌に長いまつ毛、浅く開いた唇。

 私にも妹にも兄にも似ていない。そのことが尊く感じられた。似てなくて良かった。


 ハッと目を覚ましたウェズリーが慌てた。


「わっ、ジェラルディン。来たなら起こして」


「つい見とれちゃって。寝顔見れるのレアだし、嬉しい」


 弟は居心地が悪そうな顔をした。


「ジェラルディンはほんと酔狂だね」


「ウェズリーは可愛い上に賢いわね。酔狂なんて難しい言葉、どこで覚えたの? 本に出てきたの?」


 学校へ行っておらず、私たち兄妹のように家庭教師がついているわけでもないウェズリーは、勉強がしたければ自主的に、ということになる。

 読書が好きなウェズリーのために、適当に本を買っては差し入れしている。


「うん、そう。先週くれた本、魔法使いの伝記シリーズ面白いよ。ありがとう」


「あ、これお昼ご飯とオヤツと、夕食ね」


 テーブルに置いたバスケットの中身を取り出して並べた。家族から正式に支給される弟用の食事は廃棄寸前の古いもので量も少ないから、私が工夫して調達している。

 お小遣いの大半はウェズリーの食事や差し入れの品に費やしている。

 もちろんそれを恩着せがましくウェズリーに言うことはない。私が好きでやっていることだ。むしろ生き甲斐の領域。


 ウェズリーが我が家に来る前は、私の存在意義はなかった。

 父は王位を継ぐ兄がいれば満足で、義母はモニークだけを可愛がり、前妃の娘である私はとにかく居心地が悪かった。

 もし私がモニークより美しくて、凛とした強さを持った賢い王女なら、もっと堂々と振る舞えただろうけれど。

 地味で特別賢くもなく、弱くて周囲の顔色をうかがってばかりの私には無理だった。


 ウェズリーの前では違う。ウェズリーの前での私は優しくて賢いお姉さんで、与える側の人間だ。愛情をかけると弟は私だけに懐き、胸がほっこりする笑顔を見せてくれる。本当に癒される時間。

 しかし、この別邸に長居はできない。一応王女である私は、家庭教師による勉強や習いごとのスケジュールがびっちり組まれ、余暇は余暇で社交やボランティアや公務がある。

 義母に釘を刺されたこともある。


「ジェラルディン、ウェズリーのお世話をするのは良いけど、あの子も大きくなってきたことだし、あまり仲良くなりすぎるのは禁物よ」


「どうして?」


「あなたはレディなのよ。なにか間違いがあったり、端から詮索されるような行動は慎まないと。弟を慰み者にしてるなんて噂が出てごらんなさい、笑い者よ」


 心配して注意喚起というより、すでにそう思われていることを揶揄し、あざ笑う口調だった。

 ウェズリーが私の慰み者――それは確かに間違っていない。



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