地獄の晩餐会
お屋敷の中に入ると、広い玄関ホールに、執事と侍女を従えた公爵夫人が待ち受けていた。
ああそうだった、ドランスフィールド公が不在でもこの夫人がいたのだ。
豊かな黄金色の髪を頭頂部でもりもりに盛り、派手な顔立ちに濃い化粧、原色に近いドレスを着ている。宝石類もジャラジャラだ。
う、目が痛い。
「んっまあ、王女殿下! 本当にいらっしゃるなんて、まるで夢のようですわ! モーリスの虚言かと、今の今まで疑っておりましたの」
相変わらず声もでかい。公爵同様苦手な人種だ。ド派手で明るく、よく笑いよく喋る。その場の話題を根こそぎもぎ取って行くパワー。とにかく明るい。圧倒的、根アカ感。
「………でね〜、この子ったら顔はいいし、世間で言うところのハイスペックってやつでしょ〜。親の私が言うのも何だけど、モテるのよ〜。でもねぇ、その分スカしてて理想が高いったら。次から次へとお見合い相手をぶった斬っちゃって、誰ならいいのよって、もう腹立っちゃって。そうしたらなんと、自らジェラルディンさまにアプローチしたって言うじゃない? も〜びっくりしちゃってぇ」
晩餐時、お酒が入ってほろ酔いになった公爵夫人はパワー全開だった。態度も言葉遣いも砕けきっている。
「母上、やめてください。すごく失礼ですよ。そろそろ黙ってもらえませんか」
「ほら〜やだぁ、スカしちゃってぇ。てか照れてるのね〜。ダメよぉ、もっと自分からグイグイいかなきゃ。私ばっかり喋ってるじゃないの。黙っててもモテるなんて自惚れちゃダメよ。今まではそうでも、王女さま相手には通用しないの。ねえ、ジェラルディンさま」
「もうお母さまったら、飲みすぎですよ。ジェラルディンさまがいらして嬉しいのは分かりますけど」
と娘のアリスンが夫人からワイングラスを取り上げた。三歳の双子を行儀よく躾ながら、器用に食事を続ける彼女には感心しきりだ。
「申し訳ございません、ジェラルディンさま。母が浮かれるのも無理はないんです。まさかジェラルディンさまが弟を選んでくださるなんて、夢かと思いますもの」
苦笑いを固定させてやり過ごしていたが、思わず「ぐっ」という変な声が漏れた。噛み砕いていたフィレステーキが喉に詰まりそうになったのだ。
「失礼。私がモーリス卿を、選んだ?」
「あっ申し訳ございません。まだ気が早いですよね。でも山のように届く招待状の中から、弟のものを選び取ってくださったんですよね」
捏造だ。そんな事実は知らない。
「とんでもないことです。山のような招待状だなんて」
私に届くはずがない。
「いえいえ、ご謙遜を」と微笑むアリスンに他意は無さそうだ。
義母ならこの手の嫌味はお手のもので、義母に鍛えられたからこそ、アリスンが本心で言っていることが感じ取れた。
国外の貴族に嫁いだアリスンは、国内の社交事情に疎いのかもしれない。
「ジェラルディンさま。姑と小姑がうるさくて邪魔なので、食後に私の部屋でゆっくりお話できませんか?」
モーリス卿が言った。そうだ、私はそのためにここへ来たのだ。地獄のような晩餐会で魂を削るためではない。
ウェズリーの『裏の顔』について、詳しくは今日話すという約束だ。
「はい。望むところです」




