感謝の言葉
食事を終え、会計へ向かう。
「あ、私が払うわ」
「ここは俺に出させて。ジェラルディンにはいつもお世話になってるから」
そういってウェズリーはポケットから擦り切れた財布を取り出した。開くと、コインが詰まっていた。
カフェを出て、少し歩いたタイミングで尋ねた。
「ウェズリー、お金はどうやって稼いでいるの? 前に聞いたときには教えてくれなかったけど」
「秘密」
「悪いことはしてないでしょうね?」
「うーん、悪いこと……ではないと思う」
歯切れが悪くて不安しかない。
「今の俺ができる、精一杯のことだよ。体を使って稼いでる」
「かっ体を使ってって、まさか、そそそういうのじゃないよね!?」
「そういうのって?」
とウェズリーはキョトンとした。
「有閑マダムと一夜を共にしたり、そういうの!」
「えっ、一緒に夜を越すだけでお金が貰えるの?」
無邪気に驚く弟に安心した。余計なことを言ってしまったらしい。
「それだけで済まないのよ。だから絶対にそういうことはしちゃ駄目よ。分かった?」
「分かった。今の稼ぎ方で十分だから、そういうのはしない。楽しくなさそうだし」
「……ねえ、ウェズリー。ウェズリーはこうやって自由に外へ出て、自分で稼ぐ術も知ってて、魔法だって使える。すごいよね。もうあんな狭苦しいところに戻って、我慢する必要ないよね。私たち家族と決別して、見返してやろうとは思わないの? 復讐したいって思わないの?」
ずっと気になっていた。これ以上胸に押しとどめられず、とうとう口に出してしまった。
知らない間にぐんと大人になって逞しくなって、魔法や稼ぎ方まで習得した弟は、決意すればもういつでも実行に移せるだろう。
私たちへの復讐を。
「復讐?」
ウェズリーは心底驚いたような顔をした。
「何でそういう思考になるの。見返してやるとか復讐とか。思うわけないでしょ。俺はすごく感謝してるよ。捨てられてた小汚い俺を拾って、安全に寝られる場所と、食べるものと着るものを与えてくれて。狭苦しいところって、そりゃ本城で暮らしてるジェラルディンから見ればそうだろうけど、一般庶民から見れば立派な一軒家だよ。俺にはもったいないくらい」
真剣な口調でウェズリーは言葉を続けた。
「いつまでも甘えてちゃいけない、もう出て行かなきゃって思うけど、ずるずる居着いちゃってる。ごめん、俺まだあそこにいたいんだ。ジェラルディンは俺に出て行ってほしくて、そんな風に言うの?」
「まさか。私は、いてほしいに決まってるでしょ。一生、一緒にいてほしいわよ」
焦って、プロポーズもどきの言葉を発してしまう。
ウェズリーの顔に満面の笑みが広がった。
「良かった。俺もジェラルディンとずっと一緒にいたい」
ああ、好き。可愛い。この無邪気さは罪だ。姉としてどうあるべきか、常に自問する。




