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元サラリーマン、愛の力で世界を救います  作者: 坂元たつま


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初依頼と、三人目のヒロイン

 アルメスの街に来て二日目の朝。

 ハルトは早くも冒険者ギルドの前に立っていた。


「……よし」


 冒険者カードを確認し、気合を入れて扉を押す。

 昨日よりも人が多く、朝から依頼を探す冒険者で賑わっている。


「おはようございます、ハルトさん」


 声をかけてきたのは、受付のミーナだった。

 いつもと変わらない穏やかな笑顔だが、どこか嬉しそうにも見える。


「おはようございます、ミーナさん」


「今日は、初めての依頼ですか?」


「はい。できれば、初心者向けで……」


「でしたら、こちらがおすすめですよ」


 ミーナは依頼板から一枚の紙を取って差し出した。


【街外れの薬草採取/危険度:低】

【報酬:銅貨数枚】


「森の入り口付近で、薬草を摘んでくるだけです。魔物もほとんど出ませんし、単独でも問題ありません」


「助かります。これなら僕にも……」


「無理はしないでくださいね。帰ってくるまでが依頼ですから」


 その言葉に、胸がほんのり温かくなる。


《愛情反応:微。経験値+6》


(やっぱりミーナさん、癒し系だ……)


「じゃあ、行ってきます」


「いってらっしゃい。気をつけて」


 その見送りの声が、なぜか背中を押してくれた。



 街外れの森は、村の近くの森よりも整備されている。

 踏み固められた道、ところどころに立つ警戒用の杭。


「これなら安心だな」


 導きの書に書いてあった通り、薬草は日陰に生えやすい。

 ハルトは慎重に足元を見ながら進んだ。


(よし、あった)


 緑色の葉に、淡い青の斑点。

 指定されていた薬草だ。


「……意外と、ちゃんと冒険者してる気がする」


 ひとつひとつ丁寧に摘み、袋に入れていく。


 その時――


「ちょっと! それ、私の狙ってた薬草なんだけど!」


 背後から、元気な女性の声が飛んできた。


「え?」


 振り返ると、そこには赤毛の少女が立っていた。

 短めの外套に軽装、腰には短剣。活発そうな雰囲気だ。


 年は……自分より少し下だろうか。


「それ、ギルドの依頼?」


「え、あ、はい……」


「じゃあ仕方ないか。でも、一本くらい譲ってよ」


 距離が近い。

 遠慮がなく、ずいっと顔を近づけてくる。


(近い……!)


「私はセシル。新人冒険者よ」


「相崎ハルトです。こちらこそ新人で……」


「へえ。じゃあ同期ね」


 セシルはにっと笑った。


「でも、動き見てたら完全に初心者だね」


「……否定できません」


「正直でいいじゃん」


 屈託のない笑顔。

 リリアとも、ミーナとも、アリシアとも違うタイプ。


(明るい系……距離感ゼロタイプか)


「一人で来てるの?」


「はい」


「危ないよ? 一応、魔物が出ることもあるんだから」


 そう言った直後、茂みが揺れた。


 ガサッ。


「……来た?」


 小型のゴブリンが一体、飛び出してくる。


「えっ……!」


 ハルトは咄嗟に構えたが、体が硬直する。


「下がって!」


 セシルが素早く前に出た。

 軽快な動きで短剣を振るい、ゴブリンの腕を切り裂く。


「今!」


「は、はい!」


 ハルトは必死に剣を振り下ろした。

 ぎこちない一撃だが、セシルの援護のおかげでゴブリンは倒れた。


「はあ……はあ……」


「やるじゃん。ちゃんと当てたね」


「い、いえ……」


「でも動きが遅い。訓練してないでしょ?」


「……はい」


 セシルは呆れたように笑った。


「しょうがないなあ。あたしが少し教えてあげるよ」


「え?」


「同期なんだし。死なれたら後味悪いでしょ」


 そう言って、肩を叩いてくる。


 距離が近すぎて、心臓が跳ねた。


《愛情反応:微増。経験値+8》


(このタイプ、親しくなるの早い……)



 薬草を集め終え、二人で森を出る。


「初依頼でゴブリンはちょっと運悪かったね」


「助かりました。本当に」


「いいって。今度はちゃんと訓練しなよ」


 街が見えてくると、セシルはふっと立ち止まった。


「ねえ、ハルト」


「はい?」


「ギルド、これから戻る?」


「ええ」


「じゃあ一緒に行こ」


 断る理由はなかった。



 ギルドに戻ると、ミーナがすぐに気づいた。


「あ、お帰りなさい、ハルトさん……と?」


「セシルよ。新人」


「初依頼、お疲れさまでした」


 ミーナはセシルにも丁寧に頭を下げる。


「ハルトさん、無事でよかったです」


 その言葉に、胸がまた温かくなる。


《愛情反応:微。経験値+5》


「それよりさ」


 セシルがニヤニヤしながら言った。


「この人、初心者だけど根性あるよ。ちょっとは見直してあげて」


「え?」


 ミーナは少し驚いた顔でハルトを見る。


「……そうなんですね」


 視線が柔らかくなったのが分かった。


「ありがとうございます、セシルさん」


「いいって。じゃ、あたしは別の依頼行くから」


 手を振って去っていくセシル。


(……嵐みたいな人だ)



 依頼完了の手続きを終え、報酬を受け取る。


「これが、初めての報酬……」


「お疲れさまでした。ハルトさん」


 ミーナは微笑んだ。


「最初は誰でも失敗します。でも……ちゃんと戻ってきてくれましたね」


「はい」


「それだけで、十分です」


 優しい言葉だった。


《愛情反応:増。経験値+15》


(……この人、本当に支えになるな)


 その時、ギルドの入口から冷たい声がした。


「あなた、無茶してないでしょうね」


 振り向くと、腕を組んだアリシアが立っていた。


「……ゴブリンに遭遇したって聞いたけど」


「だ、大丈夫です!」


「……まったく」


 ため息をつきながらも、アリシアの目はどこか安堵していた。


「生きて帰ってきたなら、それでいい」


 その一言に、胸が少し熱くなる。


《愛情反応:微増。経験値+7》


(……三人目、登場完了だな)


 リリア。

 ミーナ。

 アリシア。

 そしてセシル。


 それぞれ違う距離感、違う難易度。


「よし……」


 ハルトは心の中で決意する。


(この街で、もっと強くなる)


 愛されて、成長して、

 その先に魔王討伐がある。


 冒険者としての第一歩は、確実に前へ進んでいた。


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