初依頼と、三人目のヒロイン
アルメスの街に来て二日目の朝。
ハルトは早くも冒険者ギルドの前に立っていた。
「……よし」
冒険者カードを確認し、気合を入れて扉を押す。
昨日よりも人が多く、朝から依頼を探す冒険者で賑わっている。
「おはようございます、ハルトさん」
声をかけてきたのは、受付のミーナだった。
いつもと変わらない穏やかな笑顔だが、どこか嬉しそうにも見える。
「おはようございます、ミーナさん」
「今日は、初めての依頼ですか?」
「はい。できれば、初心者向けで……」
「でしたら、こちらがおすすめですよ」
ミーナは依頼板から一枚の紙を取って差し出した。
【街外れの薬草採取/危険度:低】
【報酬:銅貨数枚】
「森の入り口付近で、薬草を摘んでくるだけです。魔物もほとんど出ませんし、単独でも問題ありません」
「助かります。これなら僕にも……」
「無理はしないでくださいね。帰ってくるまでが依頼ですから」
その言葉に、胸がほんのり温かくなる。
《愛情反応:微。経験値+6》
(やっぱりミーナさん、癒し系だ……)
「じゃあ、行ってきます」
「いってらっしゃい。気をつけて」
その見送りの声が、なぜか背中を押してくれた。
◆
街外れの森は、村の近くの森よりも整備されている。
踏み固められた道、ところどころに立つ警戒用の杭。
「これなら安心だな」
導きの書に書いてあった通り、薬草は日陰に生えやすい。
ハルトは慎重に足元を見ながら進んだ。
(よし、あった)
緑色の葉に、淡い青の斑点。
指定されていた薬草だ。
「……意外と、ちゃんと冒険者してる気がする」
ひとつひとつ丁寧に摘み、袋に入れていく。
その時――
「ちょっと! それ、私の狙ってた薬草なんだけど!」
背後から、元気な女性の声が飛んできた。
「え?」
振り返ると、そこには赤毛の少女が立っていた。
短めの外套に軽装、腰には短剣。活発そうな雰囲気だ。
年は……自分より少し下だろうか。
「それ、ギルドの依頼?」
「え、あ、はい……」
「じゃあ仕方ないか。でも、一本くらい譲ってよ」
距離が近い。
遠慮がなく、ずいっと顔を近づけてくる。
(近い……!)
「私はセシル。新人冒険者よ」
「相崎ハルトです。こちらこそ新人で……」
「へえ。じゃあ同期ね」
セシルはにっと笑った。
「でも、動き見てたら完全に初心者だね」
「……否定できません」
「正直でいいじゃん」
屈託のない笑顔。
リリアとも、ミーナとも、アリシアとも違うタイプ。
(明るい系……距離感ゼロタイプか)
「一人で来てるの?」
「はい」
「危ないよ? 一応、魔物が出ることもあるんだから」
そう言った直後、茂みが揺れた。
ガサッ。
「……来た?」
小型のゴブリンが一体、飛び出してくる。
「えっ……!」
ハルトは咄嗟に構えたが、体が硬直する。
「下がって!」
セシルが素早く前に出た。
軽快な動きで短剣を振るい、ゴブリンの腕を切り裂く。
「今!」
「は、はい!」
ハルトは必死に剣を振り下ろした。
ぎこちない一撃だが、セシルの援護のおかげでゴブリンは倒れた。
「はあ……はあ……」
「やるじゃん。ちゃんと当てたね」
「い、いえ……」
「でも動きが遅い。訓練してないでしょ?」
「……はい」
セシルは呆れたように笑った。
「しょうがないなあ。あたしが少し教えてあげるよ」
「え?」
「同期なんだし。死なれたら後味悪いでしょ」
そう言って、肩を叩いてくる。
距離が近すぎて、心臓が跳ねた。
《愛情反応:微増。経験値+8》
(このタイプ、親しくなるの早い……)
◆
薬草を集め終え、二人で森を出る。
「初依頼でゴブリンはちょっと運悪かったね」
「助かりました。本当に」
「いいって。今度はちゃんと訓練しなよ」
街が見えてくると、セシルはふっと立ち止まった。
「ねえ、ハルト」
「はい?」
「ギルド、これから戻る?」
「ええ」
「じゃあ一緒に行こ」
断る理由はなかった。
◆
ギルドに戻ると、ミーナがすぐに気づいた。
「あ、お帰りなさい、ハルトさん……と?」
「セシルよ。新人」
「初依頼、お疲れさまでした」
ミーナはセシルにも丁寧に頭を下げる。
「ハルトさん、無事でよかったです」
その言葉に、胸がまた温かくなる。
《愛情反応:微。経験値+5》
「それよりさ」
セシルがニヤニヤしながら言った。
「この人、初心者だけど根性あるよ。ちょっとは見直してあげて」
「え?」
ミーナは少し驚いた顔でハルトを見る。
「……そうなんですね」
視線が柔らかくなったのが分かった。
「ありがとうございます、セシルさん」
「いいって。じゃ、あたしは別の依頼行くから」
手を振って去っていくセシル。
(……嵐みたいな人だ)
◆
依頼完了の手続きを終え、報酬を受け取る。
「これが、初めての報酬……」
「お疲れさまでした。ハルトさん」
ミーナは微笑んだ。
「最初は誰でも失敗します。でも……ちゃんと戻ってきてくれましたね」
「はい」
「それだけで、十分です」
優しい言葉だった。
《愛情反応:増。経験値+15》
(……この人、本当に支えになるな)
その時、ギルドの入口から冷たい声がした。
「あなた、無茶してないでしょうね」
振り向くと、腕を組んだアリシアが立っていた。
「……ゴブリンに遭遇したって聞いたけど」
「だ、大丈夫です!」
「……まったく」
ため息をつきながらも、アリシアの目はどこか安堵していた。
「生きて帰ってきたなら、それでいい」
その一言に、胸が少し熱くなる。
《愛情反応:微増。経験値+7》
(……三人目、登場完了だな)
リリア。
ミーナ。
アリシア。
そしてセシル。
それぞれ違う距離感、違う難易度。
「よし……」
ハルトは心の中で決意する。
(この街で、もっと強くなる)
愛されて、成長して、
その先に魔王討伐がある。
冒険者としての第一歩は、確実に前へ進んでいた。




