冒険者ギルドと、新たな出会い
アルメスの街は、思った以上に活気に満ちていた。
街の入り口をくぐると、商人たちの声、旅人の足音、鍛冶屋の金属音、香ばしいパンの匂いが一気に押し寄せる。村とは規模も雰囲気もまるで違う。
「すごい……。これが、街か」
人の多さに圧倒されながらも、胸が高鳴っていた。
旅人としての一歩を踏み出した実感が湧いてくる。
まず向かうべきは――冒険者ギルド。
大通りをまっすぐ進むと、その建物はすぐに見つかった。
石造りの二階建て。大きな木の扉の上に「冒険者ギルド・アルメス支部」の看板が掲げられている。人の出入りも多い。
深呼吸して扉を押すと、中はさらに賑やかだった。
武器を手入れする者、酒を飲む者、依頼表を必死に読む者。
その喧騒に気圧されつつも、ハルトは受付へと進んだ。
そこで――
「ようこそ、冒険者ギルドへ。ご登録ですか?」
ハルトの目に飛び込んできたのは、柔らかい笑顔をした女性だった。
肩までの栗色の髪。
優しい印象の瞳。
清潔感のある制服姿。
目立って派手ではないが、誰もが安心して相談したくなるような雰囲気がある。
(……かわいい)
思わず硬直してしまう。
「あ、はい。登録をお願いしたいんですが……」
「では、こちらのカウンターへどうぞ」
女性はにこやかに案内してくれた。
名前の記入欄だけの簡単な書類を渡される。
「お名前は?」
「あ、相崎ハルトです」
「では、ハルトさん。登録には年齢、生まれた地域、得意な分野などの確認がありますが……」
そこで彼女は少し首を傾げた。
「ハルトさん、初めて見るお顔ですね。どこの村の出身ですか?」
(……やばい。転生者って言えないし)
適当にごまかすしかない。
「えっと……小さな村で、生まれ故郷は言いにくいところでして……」
「言いたくないなら無理に聞きませんよ」
にこっと微笑まれ、胸に温かい感覚が広がる。
《愛情反応:微細。経験値+4》
(受付の人からも経験値入るのか……)
世界のルールを再確認しつつ、女性の名札に視線を向けた。
そこには――
「ミーナ……さん?」
「はい。担当受付のミーナです。これからよろしくお願いしますね」
(この人……絶対ヒロイン候補だ)
穏やかな笑顔に、ふいにドキリとさせられる。
「ではまず、簡単な魔力量の測定から行いますね」
ミーナは机の上に置かれた透明な水晶玉を指さした。
「手を乗せてください。魔力がどの程度あるかを測ります」
「はい……」
恐る恐る手を乗せると、水晶がぼんやりと光った。
が――微妙に薄い。
「ん……?」
ミーナが少し困った顔をする。
「ごめんなさい、これは……魔力量は平均より少し低め、ですね」
「やっぱり……」
「ですが、魔力量が低い方はちゃんといますし、魔法だけが戦いではありませんよ」
励ますような言い方だった。
(ミーナさん……めちゃくちゃ優しい)
さらに小さく光。
《愛情反応:微。経験値+6》
優しさに触れると反応があるのか、内心メモしておく。
登録の説明が続く。
「冒険者は階位で分かれていて、最初はFランクからのスタートになります。依頼をこなすごとにポイントが貯まり、昇格できます」
「なるほど」
「ちなみに、Fランクは簡単なお使いや雑用が中心です。おすすめは……街の周辺で採取する仕事ですね」
「採取……」
「はい。初心者の方にちょうどいいですよ」
ミーナの優しい声を聞いているだけで、不思議と安心感が湧く。
「ではこちら、冒険者カードになります。なくさないようにしてくださいね」
差し出されたカードには、ハルトの名前と「Fランク」の文字。
カードを受け取った瞬間、胸に小さな光がともった。
(これで、正式に冒険者……!)
胸が高鳴り、自然と引き締まる思いがする。
◆
「ところでハルトさん……」
ミーナが少し顔を近づけ、声を潜めてきた。
「街に入る時、騎士団の女性と一緒ではありませんでしたか?」
「え?」
「背の高い……黒髪を結んだ、とても綺麗な方です」
「ああ、アリシアさんですか」
「やっぱり……」
ミーナは微妙に困ったような、嫉妬とも違うような、不思議な顔をした。
「実はアリシアさん……国内でも有名な騎士なんです。強くて真面目で、近寄りがたい雰囲気があって……」
「そうですね、確かに少し怖いかも……」
「でも、街の人からは信頼されています。ただ……」
「ただ?」
ミーナは声をさらに小さくした。
「男性に、全然興味がないんです」
「えっ」
「以前、冒険者さんが何人もアリシアさんに言い寄ったらしいのですが……全員、真っ二つに切られたとか……」
「ひっ」
心臓が跳ね上がる。
「もちろん比喩ですよ。心を折られた、という意味で」
(よかった……いや、よくないか)
「なので……アリシアさんと一緒に歩いていたハルトさんを見て、ちょっとびっくりしたんです」
ミーナはほっとしたように笑った。
「護衛だったんですよね?」
「ええ、たまたま見かけただけで……」
そう説明すると、ミーナは微かに安心した顔をした。
(え? 今の反応……まさか)
ミーナの気持ちがほんのり揺れたのを感じた。
《愛情反応:極微。経験値+2》
(……好意が入りやすいタイプかもしれない)
リリア=素直タイプ
アリシア=超クール難関タイプ
ミーナ=癒し系、やや攻略しやすい中堅タイプ
そんな分類が頭に浮かぶ。
◆
「では、登録は完了です。さっそく何か依頼を受けますか?」
「いえ、今日はまず街を見て回りたいと思ってます」
「そうですか。……では、もし分からないことがあればいつでも聞きに来てくださいね。ハルトさんなら歓迎します」
ミーナが微笑む。
その笑顔があまりに自然で、胸がまた軽く温まる。
《愛情反応:微増。経験値+10》
(受付嬢……強い)
癒し系の破壊力は侮れない。
「本当に、困った時はいつでも来てください。……あ、無理に仕事としてじゃなくても、雑談だけでも」
「雑談……?」
「ええ。新人さんの助けになるなら、私も嬉しいですし……」
言葉の語尾が少しだけ照れているように聞こえた。
これは、かなり脈がある。
「ありがとうございます。絶対また来ます」
「はい。お待ちしていますね」
ミーナは嬉しそうに会釈した。
◆
ギルドを出た瞬間、胸の中で経験値が小さくまとめて跳ねた。
(……この街での出会い、かなり重要かもしれない)
女神がくれた転生特典。
愛されるほど強くなる。
リリアでレベルが上がったように、この街での人間関係が、次なるステップとなる。
「よし……まずは街を歩いてみるか」
ハルトは冒険者カードをポケットにしまい、アルメスの街へと歩き出す。
その表情には、不安よりも期待が大きかった。
この街にはまだ――
第二、第三のヒロイン候補がいる。
そしてその中には、アリシアのように攻略難易度が高い相手もいるだろう。
「面白くなってきた……」
その瞬間、背後から聞き慣れた声がした。
「あなた、登録は済んだの?」
振り返ると、アリシアが腕を組んで立っていた。
「ア、アリシアさん!」
「街を歩く前に、騎士団からひとつ忠告がある」
「え、忠告……?」
「あなたみたいな初心者が街で無茶をすると、私が面倒を見ることになるの。困らせないこと」
「は、はい……!」
アリシアはふいに視線を逸らし、小さくつぶやいた。
「……まあ。困ったら助けはするけど」
その一言に胸が熱くなる。
《愛情反応:微増。経験値+9》
(アリシアさん……優しい)
街の喧騒の中、アリシアは黒髪を揺らして去っていった。
(こうして見ると……本当に綺麗だな)
ミーナの柔らかい笑顔。
アリシアのクールな優しさ。
そして、これから出会う女性たち。
「よし。絶対に強くなるぞ」
ハルトは拳を握りしめ、次なる展開へ歩き出した。




