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元サラリーマン、愛の力で世界を救います  作者: 坂元たつま


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2/19

村娘と冒険者ギルドと、初めての自信

 翌朝。布団の柔らかさと日差しの暖かさで目が覚めた。

 普段ならアラームの爆音に怯えながら起きていたのに、こんな爽やかな目覚めは何年ぶりだろう。

 リリアの家に泊めてもらったおかげだ。

 彼女の母親が用意してくれた朝食は、焼きたてのパンに濃厚なミルクスープ、採れたて野菜のサラダ。どれも素朴だが心がこもっていて、胸にしみた。


「ハルトさん、今日のご予定は?」


「ああ、村のギルドで冒険者登録でもしておこうかなと思って」


「でしたら私が案内します。村の中心にありますから」


 リリアは笑顔で言い、食器を片付けると外へ出る準備をし始めた。

 昨日、命を救ったとはいえ、ここまで親切にされると申し訳ない気持ちになるが……その一方で、自分が誰かに必要とされていると感じられることが、こんなにも嬉しいなんて。


 そんな自分に少し驚いていると、リリアが家の前で待っていた。


「行きましょう、ハルトさん」


「ああ、ありがとう」


 二人で村を歩く。

 道すがら、村人たちが声をかけてくれる。


「お前がリリアを助けた冒険者か。礼を言うよ」


「本当にありがとう。うちの娘もあの日に同じ森にいたらと思うと……」


「あ、ああ。そんな、大したことは……」


 照れてしまう。

 照れながらも、胸の奥でじんわりと熱いものが広がる。


(俺……役に立ててるんだ)


 その感覚が、心地よかった。



 村の中心地にあった建物に着く。

 冒険者ギルドと聞いてイメージしていたより、ずっと小さい。

 酒場と併設されているようで、朝から酔っ払いが一人出てきてふらふら歩いていった。


「ここが冒険者ギルドです」


「思ったより……庶民的というか」


「この村は小さいですから。でも、ちゃんと登録できますよ」


 リリアに背中を押され、俺は扉を開けた。

 中はカウンターがあり、奥では粗野な雰囲気の男たちが談笑している。


「いらっしゃい、新人さんかい?」


 カウンターにいたのは、三十手前くらいの女性。

 黒髪を後ろでまとめ、胸元まで広がる赤いベストから健康的な雰囲気が漂っている。

 少し強気そうな笑みが印象的だ。


「冒険者登録をお願いします」


「はいはい。では名前と年齢と、得意なことを」


「相崎ハルト。二十五歳。得意なことは……営業トーク?」


「えっと、それは戦闘にはどう関係するんだ?」


 女性は困ったように笑った。

 俺も苦笑いするしかない。


「ま、とにかく登録すれば依頼を受けられるわ。私はミナ。ここの受付嬢よ」


 ミナと名乗った女性が書類を取り出し、俺は必要事項を記入していく。

 書き終えるとギルドカードが手渡された。


「これで晴れて冒険者ね。頑張りなさいよ」


「ありがとうございます」


 なぜかミナは俺の手をしっかり握ってきた。

 その感触は力強く、けれど温かい。


 その瞬間――


【経験値 +20】

【レベル 3 → 3】


 微増だが、確かに経験値は入った。

 スキルは女性からの好意だけでなく、信頼や感謝も拾うらしい。


「あれ、顔が赤いわよ。緊張した?」


「いや、ちょっとびっくりしただけです」


「ふふっ。新人にはよくあることよ」


 ミナはウインクをして笑った。

 この人、距離感が近い。


「ハルトさん、次は依頼ですね!」


「ああ、そうだな」


 リリアが覗き込むようにして依頼掲示板を見た。

 そこには村の雑務がずらりと並んでいる。

 狼退治や荷物運び、井戸掃除まで。


「まずは簡単なのがいいだろうな……」


 俺がつぶやくと、ミナが助言してくれた。


「初めは素材集めが無難ね。森で採れる薬草を持ってきてくれればいいわ」


「じゃあ、それを受けます」


「気を付けてね」


 ミナの声に見送られながら、俺とリリアはギルドを後にした。



 森に入ると、昨日の記憶がよみがえる。

 ここでリリアを助けたんだ。


「昨日は本当に怖かったんです。でも、ハルトさんが来てくれて……」


「いや、俺はただの勢いだから。助けられて良かったよ」


 薬草を探しながら歩く。

 リリアは植物に詳しいようで、


「この葉が二股に分かれているものが薬草ですよ」


 と教えてくれる。


「へえ、詳しいんだな」


「村では誰でも知っていますよ」


「俺、こういうの全然知らなくてさ」


「大丈夫です。私が教えますから」


 リリアは微笑む。

 その笑顔は一切の曇りがなく、まっすぐ俺を信じてくれている。


(信じられている……?)


 そんな感覚は久しぶりすぎて、むずがゆい。


「ハルトさん」


「なんだ?」


「私、ハルトさんのこと……もっと知りたいです」


「えっ」


 思わず声が裏返った。

 リリアは少しだけ頬を染める。


「昨日、助けてくれた時、すごく優しくて、頼りになって……その……嬉しかったから」


 視線が合い、心臓が跳ねる。


 その瞬間。


【経験値 +200】

【レベル 3 → 4】


「うおっ」


「ど、どうしたんですか?」


「い、いや! なんでもない!」


 危ない。スキルの発動に毎回驚いてしまう。


(こんなに簡単に、経験値をもらっていいのか……?)


 しかし、その疑問はすぐにかき消えた。

 リリアを助けたいという気持ちは本物だ。

 だからこの力を使うことに、迷いはない。



 無事に薬草を集め終え、村へ戻る途中。

 ギルドの入り口でミナが手を振って迎えてくれた。


「おかえり。どう? 初依頼は」


「まあ、なんとか」


「ふふ、なかなかやるじゃない」


 ミナは俺に近づき、軽く肩を叩いた。

 その距離の近さに、また心臓が騒がしくなる。


「新人の中では期待の星かもね。これからに期待してるわ」


「そ、そうですか」


【経験値 +50】

【レベル 4 → 4】


 また上がった。

 信頼や期待も経験値として換算されているらしい。


 ミナはまっすぐ俺を見ていた。


「危なっかしいところもあるけどね。ちゃんと守ってあげなさいよ。その子のこと」


 視線の先には、リリアがいた。

 ミナは少し大人の余裕を見せる目で、微笑んだ。


「わかってるわね。行っていいわよ。今日はもう休みなさい」


「あ、ありがとうございます」


 リリアの家へ戻る道すがら、リリアがそっと近づいてきた。


「ミナさん、優しい人ですね」


「そうだな。なんだかんだ面倒見がいい」


「ハルトさんのこと、気に入っているのかもしれません」


「えっ、あ、いやいやいや、そんなわけ……」


 急に言われて動揺する。

 しかしリリアは少しだけ寂しそうな顔をした。


「でも、あの人はきっと素敵な冒険者さんと一緒になるんだと思います。私なんかより……」


「そんなことない。リリアは優しいし、すごく魅力的だよ」


「え……」


 口に出した瞬間、リリアの顔が真っ赤になった。

 それにつられて、俺の顔も熱くなる。


「ご、ごめん。なんか偉そうに……」


「いえ……嬉しいです。すごく」


 立ち止まり、リリアはぎこちなく笑った。


「ハルトさんが来てくれて、本当に良かった」


 胸が熱くなる。


【経験値 +300】

【レベル 4 → 5】


 またレベルが上がった。

 身体が軽くなり、力が湧いてくる。


(俺はこの世界で……ちゃんと強くなれる)


 初めて、自分に価値があると実感できた気がした。


 夜。

 ベッドの中で天井を見上げながら、俺は決意を新たにする。


(もっと強くなって、魔王を倒す。リリアや、この村を守れる人になる)


 愛されることは、恥ずかしくて、怖い。

 でも、それ以上に嬉しい。


 眠りに落ちる直前、俺は微笑んでいた。


(明日から、また頑張ろう)

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