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元サラリーマン、愛の力で世界を救います  作者: 坂元たつま


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19/19

街歩きと、選ばれない距離

 翌朝、アルメスの街は珍しく穏やかだった。


 討伐依頼も入っておらず、ハルトは久しぶりに「何もない一日」を迎えていた。


「今日は休養日ね」


 ギルド前で腕を組み、セシルが言う。


「休み?」


「強制。怪我人がうろつくの、見てられないし」


 ハルトの腕をちらりと見る。


「……そんなに重くないです」


「はいはい」


 軽く流される。



「で」


 セシルが、にやりと笑った。


「街、付き合いなさい」


「え?」


「デートってほど重くないやつ」


 あっさり言われ、反応に困る。


「セシルさんと?」


「他に誰がいるのよ」


 背中を押され、半ば強引に歩き出す。



 市場通りは活気に満ちていた。


 果物屋、露店、武具屋。


「こういうとこ、嫌いじゃないでしょ?」


「……前の世界でも、散歩は好きでした」


「前の世界」


 セシルは、その言葉を噛みしめるように繰り返す。


「……たまに、思い出す?」


「はい」


「戻りたい?」


 一瞬、言葉に詰まる。


「……今は」


 答えを探す。


「考えてないです」


 セシルは、ふっと目を細めた。


「そ」


 それ以上、踏み込まなかった。



 露店で串焼きを買い、並んで食べる。


「ほら」


 セシルが、自分の串を差し出した。


「一口」


「いいんですか?」


「感想聞きたいだけ」


 一口かじる。


 香辛料が効いている。


「美味しいです」


「でしょ」


 満足げに頷く。


 距離は近いが、触れない。


 その曖昧さが、妙に落ち着かなかった。


《愛情反応:微増。経験値+8》



 武具屋の前で、セシルが立ち止まる。


「……あんた」


「はい」


「女の子たちのこと」


 声が少し低くなる。


「どう思ってる?」


 直球だった。


「……大切な仲間です」


「逃げた」


「正直です」


 セシルは、少しだけ笑った。


「まぁ、いいや」


 視線を逸らす。


「急に答え出されても、困るし」



 昼過ぎ。


 二人でベンチに腰掛ける。


 風が心地いい。


「ねえ、ハルト」


「はい」


「誰かを選ぶ日、来ると思う?」


 胸が、少しだけ痛む。


「……まだ、考えられません」


「だよね」


 即答だった。


「でも」


 セシルは、横目でこちらを見る。


「誰にも選ばれないのは、嫌でしょ?」


 言葉が、静かに刺さる。


「……はい」


「なら」


 立ち上がる。


「今は、それでいい」


 手を差し出す。


「帰るよ」


 その手を取ると、指先が一瞬絡んだ。


 すぐ離れる。


《愛情反応:増。経験値+22》



 ギルドに戻ると、ミーナが待っていた。


「お帰りなさい」


「ただいまです」


 視線が、セシルとハルトを行き来する。


「……街、楽しかったですか?」


「ええ」


 セシルが先に答える。


「まあまあ」


 含みのある言い方。


 ミーナは、曖昧に微笑んだ。


「……そうですか」



 夜。


 ハルトは一人、宿の部屋で天井を見つめる。


 誰かと歩き、笑い、近づく。


 だが、誰も選ばない。


(……それで、いいのか?)


《現在レベル:上昇中

愛情経験値:安定増加》


 力は、確実に増している。


 だが、心の整理は――まだ先だった。


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