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元サラリーマン、愛の力で世界を救います  作者: 坂元たつま


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16/19

夜営と、近すぎる距離

 その依頼は、街の外れに出没する魔族の斥候調査だった。


 討伐ではない。

 正体を確認し、数と動きを把握する――慎重さが求められる任務。


 同行者は、ハルトとレイナの二人。


 夜をまたぐ行程のため、簡易的な野営が必要だった。



「……ここで休む」


 森の中、視界が開けた小さな空き地でレイナが足を止めた。


「風向きも悪くない」


「了解です」


 焚き火を起こし、最低限の準備を整える。


 夜の森は静かで、虫の声だけが響いていた。


「……体、冷えてない?」


 ハルトがそう聞くと、レイナは一瞬だけこちらを見た。


「平気」


 そう答えつつも、マントを少し引き寄せる仕草。


(……気づかないふりの方がいいか)


 だが、焚き火の火を少し強めると、レイナは何も言わなかった。


《愛情反応:微。経験値+6》



 夜が更けるにつれ、空気が冷たくなる。


「交代で見張りを」


「私が先」


「では、その間に休みます」


 横になると、地面の硬さが背中に伝わる。


 しばらくして、レイナが声を落として言った。


「……眠れない?」


「少し」


「……じゃあ」


 レイナはためらうように一歩近づいた。


「……距離、詰めてもいい?」


「え?」


「寒い」


 それだけ。


 理由は合理的。

 だが、胸が妙にざわつく。


「……どうぞ」


 二人は焚き火を挟んで、かなり近い位置に座る。


 肩と肩が、わずかに触れる。


 布越しでも、体温が伝わった。


(近い……)


 レイナは何も言わず、前を向いている。


 だが、呼吸が少しだけ早い。



「……あんた」


 不意に、低い声。


「他の女にも、こうなの?」


「え?」


「距離」


 一瞬、答えに詰まる。


「……無意識だと思います」


「そう」


 短く返される。


「……勘違いしないで」


「はい」


「安心してるだけ」


 そう言いながら、距離は離れない。


 むしろ、少し寄った。


 太ももが触れ、思わず体が強張る。


(……落ち着け)


 レイナは気づいているのか、いないのか。


 だが、こちらを見ずに言った。


「……鼓動、速い」


「……すみません」


「謝る必要はない」


 一瞬の沈黙。


「……嫌じゃない」


 その一言で、頭が真っ白になりかけた。


《愛情反応:増。経験値+25》



 しばらくして、レイナが立ち上がる。


「……交代」


「はい」


 立ち上がる際、マントの端がハルトの腕に引っかかる。


 一瞬、指先が触れた。


 柔らかく、温かい。


 二人とも、何も言わなかった。



 見張りを終え、レイナが戻ってくる。


 ハルトは焚き火の前で座っていた。


「……起きてたの?」


「眠れなかったので」


「……そう」


 今度は、レイナの方から隣に座る。


 距離は、さらに近い。


 肩に、わずかな重み。


(……寄りかかってる?)


 レイナの髪から、かすかな香りがした。


「……一つだけ」


「はい?」


「調子に乗らないで」


 低く、だが柔らかい声。


「今は、ここまで」


「……はい」


 その言葉に、なぜか安堵と名残惜しさが混じる。


 だが、レイナは離れなかった。


 肩に頭を預けたまま、静かに目を閉じる。



 夜明け前。


 レイナが目を覚まし、体を離す。


「……忘れて」


「忘れません」


「……バカ」


 そう言いながら、口元がほんの少しだけ緩んだ。


《愛情反応:増。経験値+18》



 朝日が森を照らす。


(……簡単には進まない)


 だが、確実に距離は縮まっている。


 触れて、感じて、踏みとどまる。


 その緊張感が、妙に心地よかった。


 ハルトは剣を握り直す。


(次は……行動で示す番だ)


 魔族の気配が、遠くに漂っていた。


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