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元サラリーマン、愛の力で世界を救います  作者: 坂元たつま


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静かな遺跡と、信頼の芽

 旧魔導研究所は、街から半日ほど歩いた森の奥にあった。


 苔むした石造りの建物は、かつての威容をわずかに残しつつも、長い年月の重みを感じさせる。


「……ここ」


 レイナが立ち止まり、低く呟く。


「魔力の流れが乱れてる。予想以上」


「中、暗そうですね」


「視界は私が確保する」


 彼女は杖を掲げ、小さく詠唱した。


 淡い光が周囲を照らし、入口の影が浮かび上がる。


(……無駄がない)


 動きも言葉も、必要最低限。


「先に言っておく」


 レイナは振り返らずに言った。


「危険を感じたら、即撤退。資料より命優先」


「同意します」


 即答すると、レイナは一瞬だけこちらを見た。


「……迷わないのね」


「迷う理由がないです」


 その言葉に、ほんのわずかだが、表情が和らいだ気がした。


《愛情反応:極微。経験値+3》



 内部は、崩れた棚や散乱した器具で足場が悪い。


「足元、気をつけて」


「ありがとう」


 短いやり取り。


 だが、距離感は一定に保たれている。


 不意に、床の魔法陣が淡く光った。


「止まって」


 ハルトは即座に足を止めた。


「罠?」


「……古い感知式」


 レイナは慎重に魔法陣を観察する。


「踏み込むと、魔力が暴走する」


「解除できますか?」


「できる。でも時間がかかる」


 周囲を見回す。


 壁に亀裂。天井から垂れる石。


(暴走したら、崩れる可能性もある)


「……右側の通路、使えませんか?」


「……?」


「狭いですけど、魔法陣はなさそうです」


 レイナは視線を向け、少し黙った。


「……観察、できてる」


 そう言って、頷く。


「その判断、正しい」


 二人は迂回路を進んだ。


《愛情反応:微。経験値+6》



 奥の資料室に近づくにつれ、空気が重くなる。


「魔力濃度、高い」


「……無理はしないでください」


「自分の心配は?」


「二人で来てる以上、同じです」


 レイナは足を止めた。


「……変わってる」


「よく言われます」


「嫌いじゃない」


 短い言葉だったが、はっきりとした評価だった。


《愛情反応:微増。経験値+8》



 資料室の扉は半壊していた。


 中には、暴走した魔力で動く魔導装置が残っている。


「……まだ稼働してる」


「触らない方がいいですね」


「ええ」


 その時、装置が不規則に光り始めた。


「来る」


 魔力の塊が形を取り、小型の魔導ゴーレムが現れる。


「……戦闘は私が」


「待ってください」


 ハルトは一歩前に出た。


「動き、鈍いです。誘導できます」


「……できる?」


「やってみます」


 ハルトは瓦礫を利用し、ゴーレムの注意を引く。


 重い一撃が床を砕く。


(今だ)


「レイナ!」


「了解」


 正確な詠唱。

 魔法が核心を撃ち抜き、ゴーレムは停止した。



 静寂。


「……冷静だった」


 レイナが小さく息を吐く。


「無茶しなかった。役割を守った」


「前に出るだけが、戦いじゃないので」


 レイナはしばらくハルトを見つめた後、ふっと視線を逸らした。


「……信頼できる」


 その言葉は、重く、確かなものだった。


《愛情反応:増。経験値+18》



 資料を回収し、帰路につく。


 森の中、並んで歩きながら、レイナがぽつりと呟いた。


「……私、あまり人と組まない」


「そうなんですね」


「裏切られたことがある」


 短く、それ以上は語らない。


「……でも」


 歩みを止めずに続ける。


「今回は、悪くなかった」


 それは、最大限の評価だった。


 ハルトは静かに頷いた。


(この人は……時間をかけて向き合う相手だ)


 簡単には落ちない。

 だが、確実に、信頼の芽は生まれていた。

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