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元サラリーマン、愛の力で世界を救います  作者: 坂元たつま


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13/19

広がる噂と、微笑まない少女

 アルメスの街は、今日も変わらず活気に満ちていた。

 だが、ハルト自身はその空気の変化を、はっきりと感じていた。


「ねえ、あの人じゃない?」

「街中でスライム倒したって……」

「新人なのに?」


 通りを歩くだけで、ひそひそと声が聞こえる。


(……完全に噂になってる)


 少し気恥ずかしく、同時に落ち着かない。


 ギルドへ入ると、ミーナがいつもより早く気づいた。


「ハルトさん、おはようございます」


「おはようございます」


「その……昨日の件で、問い合わせがいくつか来ていて」


「問い合わせ?」


「護衛依頼や、簡単な討伐の指名です」


「えっ?」


 思わず声が裏返る。


「まだ新人ですよ?」


「それでも、“街で人を守った冒険者”というのは、印象が強いんです」


 ミーナは柔らかく微笑んだ。


「……誇っていいと思いますよ」


《愛情反応:微増。経験値+8》


(褒められるの、まだ慣れないな)



 依頼板の前で依頼書を眺めていると、背後から声がした。


「へえ、あんたが噂の新人?」


 振り向くと、フードを被った少女が立っていた。


 銀に近い淡い灰色の髪。

 落ち着いた雰囲気だが、どこか他人と距離を置く目。


 年齢は……二十歳前後だろうか。


「……はい?」


「街でスライムを倒したって聞いた」


「たまたまです」


「ふうん」


 短く返され、値踏みするような視線を向けられる。


(この人……圧が強い)


「私はレイナ。魔導士」


「相崎ハルトです」


「知ってる」


 即答だった。


「……あ」


「悪い意味じゃない」


 そう言いつつ、表情は変わらない。


「護衛依頼を探してる。短期間」


「え、僕が?」


「噂が本当か、確かめたい」


 あまりに率直で、返答に困る。


「でも、魔導士ならもっと強い冒険者に――」


「強さより、人柄を見る」


 レイナは視線を逸らさず言った。


「逃げなかったって話、本当?」


「……はい」


「じゃあ、いい」


 それだけ言って、依頼書を差し出してきた。


【資料回収・旧魔導研究所/危険度:中】


(……中!?)


「難しそうですが……」


「私は戦える。あんたは判断役」


「判断役……?」


「魔力が暴走してる場所。冷静な人間が必要」


 淡々とした説明。


(今までの依頼より、明らかにレベルが違う)


「……わかりました」


 少し迷ったが、断る理由はなかった。



 ギルドの外で待ち合わせると、セシルが目を丸くした。


「え、誰その美人」


「……聞こえてる」


 レイナが冷ややかに言う。


「あ、ごめん」


 セシルは舌を出した。


「で、ハルト。あたしは?」


「え?」


「今日、依頼ないなら一緒に――」


「今回は二人だけ」


 レイナが遮る。


「……ふうん」


 セシルは一瞬だけ不満そうな顔をしたが、すぐに笑った。


「まあ、頑張って」


 だが、視線はハルトから離れなかった。


《愛情反応:微。経験値+5》


(……気にしてる?)



 出発前、アリシアにも声をかけられた。


「旧研究所……油断しないで」


「はい」


「魔導系は、判断を誤ると命取りよ」


「……気をつけます」


 アリシアは一瞬、レイナを見てからハルトに戻す。


「信頼される行動をしなさい」


 その言葉が、重く、そして励みになった。


《愛情反応:微増。経験値+9》



 街を出てしばらく歩いたところで、レイナが口を開いた。


「……緊張してる?」


「正直、してます」


「隠さないのね」


「無理はしません」


「それでいい」


 淡々とした声。


 だが、どこか満足そうにも聞こえた。


「簡単に距離を詰めてこない」


「え?」


「……いや、独り言」


 レイナは前を向いたまま言った。


(……この人、簡単には心を開かないタイプだ)


 今までとは、明らかに違う。


 笑顔も、好意も、すぐには見せない。


(難易度、上がったな)


 だが――


 だからこそ、向き合う価値がある。


 ハルトは小さく息を吸い、足を踏み出した。


 新しい出会いは、次の成長を連れてくる。


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