初討伐依頼と、三者三様の想い
アルメスの街に朝日が差し込む頃、ハルトはすでに目を覚ましていた。
(今日は……討伐依頼)
訓練を始めてから二日。
体はまだ重いが、剣を握る手には確かな感触が残っている。
宿を出てギルドへ向かうと、いつもより胸が少し高鳴っていた。
◆
ギルドの中は朝から賑やかだった。
「おはようございます、ハルトさん」
ミーナがすぐに声をかけてくれる。
「今日は……こちらの依頼を受ける予定ですよね?」
差し出された依頼書には、はっきりと書かれていた。
【街道沿い・ホーンラビット討伐/危険度:低】
【報酬:銀貨一枚】
「ホーンラビット……?」
「角の生えた魔物です。単体なら危険は低いですが、油断すると突進されます」
「……わかりました」
昨日までなら躊躇していただろう。
だが今は、少しだけ自信がある。
「アリシアさんが同行してくれることになっています」
「え?」
「騎士団の巡回を兼ねて、とのことです」
その言葉に、心が引き締まった。
(見られる……ちゃんと戦わないと)
◆
街道を進むと、すでにアリシアが待っていた。
「準備はできている?」
「はい!」
即答すると、アリシアは少しだけ目を細めた。
「……いい返事ね」
「昨日の訓練のおかげです」
「そう。なら、無駄にしないこと」
歩き出そうとしたその時。
「おーい!」
聞き覚えのある明るい声が響く。
「……嫌な予感」
アリシアが小さく呟いた直後、セシルが駆け寄ってきた。
「その依頼、あたしも受けたんだけど」
「あなた、勝手に――」
「初心者放っとくほど薄情じゃないでしょ?」
セシルはにっと笑い、ハルトの肩を叩く。
「大丈夫。ちゃんとフォローするから」
「よ、よろしくお願いします……」
アリシアは深いため息をついた。
「……好きにしなさい。ただし、指示には従うこと」
「はーい、隊長」
「隊長じゃない」
空気が少し和らぐ。
(……この三人で討伐か)
◆
街道から少し外れた草原。
足跡を追って進むと、すぐに魔物の姿が見えた。
「……いた」
草むらの奥、角の生えた兎型の魔物――ホーンラビット。
二体。
「セシル、右。ハルト、私の後ろに」
「え?」
「今はまだ、前に出る段階じゃない」
冷静な指示。
アリシアが踏み込み、素早く一体の注意を引く。
その瞬間、もう一体が横から跳んだ。
「ハルト!」
セシルの声。
体が自然に動いた。
剣を構え、踏み込む。
昨日の訓練で繰り返した動き。
ガキン。
角を弾く感触が腕に伝わる。
「……できた!」
「いいよ、そのまま!」
セシルの声に背中を押され、ハルトは一歩前に出る。
魔物が体勢を崩した瞬間、アリシアの剣が閃いた。
二体同時に倒れる。
戦闘は一瞬だった。
◆
静寂。
「……無事?」
「は、はい……」
心臓が激しく鼓動している。
だが――恐怖より、達成感が勝っていた。
「よく反応したわね」
アリシアの声は、いつもより柔らかい。
「私が言うのもなんだけど……合格よ」
「本当ですか?」
「ええ。昨日より、確実に成長してる」
その言葉に胸が熱くなる。
《愛情反応:微増。経験値+15》
「でしょ?」
セシルが胸を張る。
「ちゃんと前見てたもん。あれ、訓練してない人の動きじゃない」
「……ありがとう」
「素直なの、ほんといいよね」
軽くウインクされ、思わず視線を逸らす。
《愛情反応:微。経験値+7》
◆
討伐を終え、街へ戻る道すがら。
「……無茶しなかった」
アリシアがぽつりと呟いた。
「え?」
「前なら、怖がって動けなかったでしょう」
「……はい」
「それを、ちゃんと判断して動いた」
歩調を合わせながら、アリシアは続ける。
「守られる側から、一歩前に出始めた」
その言葉は、何よりの評価だった。
《愛情反応:微増。経験値+10》
(アリシアさんに認められた……)
自然と背筋が伸びる。
◆
ギルドに戻ると、ミーナが駆け寄ってきた。
「お帰りなさい! ……あっ、怪我は?」
「ありません。無事に終わりました」
「よかった……」
ほっとした表情。
「……本当に」
その一言が、胸に深く染みる。
《愛情反応:増。経験値+18》
「初討伐、成功だね」
セシルが笑う。
「今日は奢りでもいいんじゃない?」
「えっ」
「冗談、冗談」
だがその場の空気は、どこか和やかだった。
◆
宿へ戻る途中、ハルトはふと立ち止まった。
(……ちゃんと、前に進んでる)
愛されて強くなる。
だが、それは決して楽な道ではない。
相手と向き合い、信頼を積み重ね、行動で示す。
それが、力になる。
まだ弱い。
だが確実に、昨日の自分とは違う。
ハルトは空を見上げ、小さく息を吐いた。
「……次も、頑張ろう」
その言葉に、誰もがそれぞれの思いを胸に抱いていた。




