表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
元サラリーマン、愛の力で世界を救います  作者: 坂元たつま


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/19

サラリーマン、死亡して即モテ期到来

 俺の名前は相崎ハルト、二十五歳。中小企業の営業職。

 毎朝七時出勤、終電帰宅。休日返上は当たり前。上司の小言と客先の無茶ぶりに挟まれ、胃薬を飲むのが習慣になっていた。


 恋愛経験は、聞かないでほしい。

 彼女いない歴は年齢と同じ。

 職場は既婚者だらけで合コンの声もかからない。

 たまに話す女性はコンビニの店員くらい。

 俺はいつから人生を諦めたんだろう。

 気づいた時には、ため息ばかりの毎日になっていた。


 その日も残業に残業を重ねた帰り道。

 電灯に照らされた歩道をフラフラと歩きながら、俺は考えていた。


(このまま独りで死んでいくんだろうなあ……)


 自虐とも本音ともつかない溜息を吐いた瞬間。


「危ない、おっさん!」


 怒鳴り声。

 振り向くより早く、視界いっぱいにトラックのフロント。


 世界が白く弾けた。


 痛みはなかった。

 ただ、ふっと身体が軽くなる感覚とともに、俺は倒れたはずの地面ではなく、真っ白な空間に立っていた。


「目覚めたようですね」


 声。

 白い空間の中央に、妙にテンションの高そうな青年が立っていた。

 背中に羽根が生えていて、服装はファンタジーゲームに出てくる神官のようだ。


「あなたは……?」


「私は神です。あるいは管理者と言った方がわかりやすいですかね。相崎ハルトさん、あなたは死にました。トラックに跳ねられて」


「あっ、ですよね」


 あまりのあっさりさに、逆に受け入れてしまった。

 そりゃあんだけ派手に轢かれたら死ぬだろう。


「本来ならそのまま輪廻へご案内するところなのですが、あなたは選ばれました」


「選ばれた、ですか」


「異世界転生です。おめでとうございます」


 唐突すぎてついていけない。

 軽いノリの神は続けた。


「あなたの行く世界では、魔王が率いる魔族と、人間が戦争をしています。どちらが滅ぶか、ギリギリの均衡状態です」


「なぜそんな危険なところに!」


「あなたに役目があるからです。魔王を倒して平和を築いてほしいのです」


「いやいや、無理ですから! 俺ただのサラリーマンですよ」


「ご安心を。あなたには転生特典を授けます」


 神は片手を上げると、空中に光の文字が浮かび上がった。


【スキル:愛の力(Love Power)】

【効果:他者から向けられた愛情を経験値として吸収する】

【愛情段階ごとに高効率でステータス上昇】

【対象は主に異性】


 読み上げられた内容に、思わず二度見した。


「ちょ、ちょっと待ってください。これは……」


「そのままの意味です。あなたが女性から愛されれば愛されるほど、あなたは強くなります」


「俺に、そんな……?」


「むしろ、あなたのようなタイプにこそ適性があるのですよ。現世ではモテなかったようですし」


「ううっ……否定できない」


 恋愛経験ゼロの俺が、愛だのハーレムだの言われても実感がわかない。


「とにかく、あなたは愛を知り、愛を与えられ、強くなる。それがあなたの成長システムです」


 神は満面の笑みで言った。


「どうか異世界を救ってください。そして存分にモテてください」


「そんな雑な激励ありますか……?」


 異世界。魔王。戦争。

 俺がヒーローになるなんて想像もできない。

 だが、モテない人生に終止符を打てるなら――。


「……わかりました。やります。魔王を倒します。そして、モテます!」


「快諾ありがとうございます。せいぜい善処してください!」


 光が俺を包み、意識が再び遠のいた。


 次に目を開けた時、俺は森の中に倒れていた。


 木々が揺れ、風が頬を撫でる。聞き慣れない鳥の声。

 見知らぬ世界に、本当に来てしまったんだ。


「スキル……あるんだよな」


 試しに意識を集中すると、視界に半透明のウィンドウが開いた。


【名前:相崎ハルト】

【年齢:25】

【レベル:1】

【スキル:愛の力】


 ゲームのステータス画面そっくりだ。


「本当に異世界……」


 その時だった。遠くから悲鳴が聞こえた。


「きゃあああ! 誰か助けて!」


 とっさに走り出していた。

 声のした方向へ駆けると、小さな開けた場所に飛び出す。

 そこには狼のような獣に追い立てられている少女の姿があった。


 栗色の髪。まだ十代半ばか。

 服装は粗末だが瞳は強い光を宿している。


「大丈夫か!」


 気付けば腰の剣を抜いていた。

 扱ったことなんかない。それでも身体が勝手に動いた。


 剣を振るう。

 自分でも驚くほど軽く、鋭い軌道で狼の鼻先を捉える。


「きゅんっ!」

 狼は怯んで後退し、森の奥へと逃げていった。


 静寂。

 少女がこわごわと顔を上げる。


「た、助けてくれたんですか……?」


「え、ええ。大丈夫?」


「はい……ありがとうございます。本当に……」


 少女は顔を赤らめ、胸に手を当てた。


「すごく、かっこよかったです」


 鼓動が跳ねた。

 その瞬間――


【経験値 +50】

【レベル 1 → 2】


 視界に浮かぶウィンドウ。

 少女が照れて微笑んだだけで経験値が入った。


「これが愛の力……!」


「えっ、何か言いました?」


「い、いや! 何でもない!」


 少女はほっとしたように笑った。


「私はリリア。村に住んでいます。もしよかったら、お礼をさせてください」


「お礼なんていいよ。困ってる人を助けたのは当然だから」


 言った自分が少し誇らしい。

 リリアは俺を村へと案内してくれた。



 村は小さかったが、温かい雰囲気に満ちていた。

 リリアの家で夕食をご馳走になり、村の人々からも感謝の言葉をもらう。


「ハルトさんはすごい冒険者なんですね」


「いやいや、全然。初心者だから」


「でも、助けてくれました。それだけで……私、すごく安心したんです」


 リリアは恥ずかしそうにうつむく。

 その距離は自然と近くなる。


「明日、村を案内します。もっと色々お話したいです」


 柔らかな笑顔。

 俺の胸に温かなものが広がる。


【経験値 +100】

【レベル 2 → 3】


 視界に光が弾けた。

 愛情は確かに俺を強くしていた。


(俺は、強くなれる……)


 これまで他人に必要とされたことなんてなかった。

 自分なんて誰の役にも立てないと思っていた。

 でも今は違う。


 誰かを助けて、愛されて、強くなる。

 そんな生き方ができるのなら――。


(魔王だって倒せるかもしれない)


 胸が高鳴る。

 俺の第二の人生が本当に、ここから始まるのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ